【楽曲・MVレビュー】音を消して「僕は僕を好きになれない」を観たほうがいい。禍々しさがわかるから。
「僕は僕を好きになれない」を最初は普通にMVを観たのだが、2回目は音を消して眺めていた。おそらくそのほうが今回のポテンシャルがよくわかると思ったから。
待望のむらいゆセンター。なのでダンスにフィーチャーされた楽曲になるのは予想されていたと思うけど「よもやここまでとは・・」と感じさせるという。
むらいゆの強暴とすら感じさせるソロダンスが肺腑に染みる。やっぱり普段の振り付けはメンバー全体のダンステクに合わせて平均値としてのレベルに調整してたんだなーと思わせる。Tiktokなどでしか観られなかった、うさぎねこの技術が制約から解き放たれたパフォがここにある。
しかし、それを際立たせたのは全体の不気味な振り付けなんじゃないかなと。
自己否定と肯定をオセロの盤面が切り替わるように交互に繰り返す不安定さをメンバー全員で踊り、むらいゆソロで爆発させる強弱。振り付けだけで言えば、今年の櫻坂楽曲のなかで飛び抜けている。(物語性が"大人の不安定"みたいな射程の長さというより“選抜外だった悔しさ"みたいな内向きな解釈にもなりかねないところがちょっと格調を下げそうだけど)
音楽自体も、このむらいゆ座長の振り付けに合った楽曲になればよかったのに・・と思わなくもないが、ここに来て坂道デフォルト寄りな曲(低音域をカットし、サビのメロディをユニゾンで歌謡曲的にするあれ)が当てられたことは、それはそれで別のテーマを見出すことができそう。
つまり、このダークな振り付けで坂道デフォルト曲を演じるということは、長らく覇権を握り続けた乃木坂的なるものを壊しにきてもいるもいうか。タイトル自体も乃木坂の曲目に重なってるわけだし。
坂道デフォルトとしか言えない曲は日向坂でも「君を覚えてない」もあったし、なにかカップリングの枠を埋める以上のものがない曲はしばしば登場する。特定の洒落たロケとファッションで当たりさわりのない坂道アイドル曲を歌わせて、クオリティのみは満たしているみたいなやつ。
「僕は僕を〜」もそれっぽいとこあるけど、櫻坂の強さであるコンテンポラリーダンス&トップメンバーのダンス技術によってそれを突破してる。
むしろ、あからさまな乃木坂の当てつけは、乃木坂の弱体化ということも加味しているのか。坂道グループ全体が失速するなか、最後のクリエイティビティとしての櫻坂、という印象がより強くなるのであった。