小説 詩篇 7篇
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問題はカンニングがバレそうになった同級生たちだった。
急に緊張してきた。
すごく怒っていたらどうしよう。。。
教室に入る。
別の授業だが彼らはいる。
怖くて顔を上げられない。
彼らの顔も見れないが視線は感じる気がする。
席について聖書のアプリを開く
『わが神、主よ、わたしはあなたに寄り頼みます。
どうかすべての追い迫る者からわたしを救い、
わたしをお助けください。
さもないと彼らは、ししのように、わたしをかき裂き、
助ける者の来ないうちに、さらって行くでしょう』
そこまでじゃない、けど、、、
でも確かに今欲しかった言葉だ。
「神様、もしもわたしが、、、」
「神様、もしもわたしが人を責めたら、
自分の不正について人を恨んだら、
もしもわたしが友を裏切ったら、
たとえ怒りを持つ相手でも彼から奪い傷つけることがあったら、
どうぞその時は、またわたしを苦しみの中に置いてください。
高くなった鼻を折り、あなたの前にひれ伏させてください。
そしてできれば優しい人に」
祈ったら少し勇気が出た。
ゆだねる、ゆだねる。
彼らのことも、自分のことも。
そう思うと彼らの視線も、彼らがしたことについても気にならなくなってきた。
そのうち、詩織ちゃんも教室に入ってきて、隣に座ってくれたから助かった。
放課後、聖書研究会の集まりがあった。
「さばきとは、、、」
8人ほど集まって、ジョージを中心に話が進んでいく。
「さばきとは、正しいってことやよな。
事実が明らかにされるというか。
だから悪い奴にとってはキツいことで、
いいことしてるけど報われてない奴には嬉しいことなんよな。
だからここで「主よ、私をさばいてください」って言うわけや」
ジョージはまた深いことを言う。
他の人たちもポカンとしていて安心した。そうよな。突飛なこと言うてるよな。
二個上のシュウさんが言った。
「確かにそうですよね。
自分も悪であることをわかった上でさばきを求めるのも、それならわかりますよね」
いや、理解してんのか。。。
さすが古株だ。
ジョージが続ける。
「そやねん!
『人はうわべを見るが、主は心を見る』これがありがたい。
と、同時に怖いけど。
でもその上で愛してるって言ってくれたら、こんなに楽なことはないよな」
会話が早過ぎて喋ることはできなかったが、勝手に納得はした。
そうか、神様は初めから僕の心の中知ってたんだ。
じゃあ、怒ってるはずないよね。
悲しんではいるかな。予想通りかな。
ああ、繋がった気がする。
「あの、、、」
勇気を持って声を出すと、ジョージがグワっとこっちを見た。怖、、、。
「た、正しいって、怖いことじゃないんだよね。
なんか、今の話で正しいのイメージが変わった気がする」
「おおー!!!そやねん!!!めっちゃいいこと言うやん!!」
めっちゃ褒めてくれた。
「この後に書いてあるさ、”憤る”って言葉もさ、
めっちゃ怒ってるとか、俺たちの悪さ、弱さを憎んでるみたいなイメージ持ちがちやけど、
おれちゃうと思うねん。
心配してるってことちゃうかと思うねん。
おれやったらするもんね。心配。
知ってて、愛してるってことは。
“帰ってこい!頼む!”っていう憤りやと思うねん」
「え、じゃあ、この後の剣や弓はどういうこと?
けっこう怖いことを言ってると思うんだけど、、、」
詩織ちゃんは鋭い。
「ほんまやな、、、」
考え込むジョージと周りの僕たち。
「あ!」
と、また僕。
「お!なんか閃いた?」
「う、うん。
見よ、その者は、、、と続いてるから読んでみたんだ。
その人、武器を神に向けられる人は、
悪い考えが心の中にある。そしてそれがトラブルになり、嘘を産む、と。
そして、彼は自分が掘った穴に自分で落ちる。自分の作ったトラブルが自分に返ってくる。彼の暴力は彼にかかってくる。
これはめちゃくちゃ深いんじゃないか、と思ったんだ。
僕は最近これを痛感した。心は弱くて、悪い、そしてそれが苦しい。
神の怒りとは、こういうことなんじゃないかな。自信ないけど、、、」
「いや!!!めっちゃええ!!!
なるほどな!!!
放蕩息子やな!!!!」
「おおー!!!ほんとだ!!
うわ!すげえ!繋がった!!」
放蕩息子は、まだ生きている親に遺産をせびって、遊びまわって、ボロボロになって帰ってくる息子の話だ。
その子を父親はじっと待ち、帰ってきたら抱きしめるのだ。
「なるほど、人には悪いとこも弱いとこもある。
神様はそれを全部知ってる。だから罪があるのもわかってる。
そんでその罪は、自分に返ってくる。暴力は暴力を生んでここに返ってくる。
でもそれを憤る神は、燃える火矢でその心を精錬する感じっすね。
それで立ち返ったら、待ってたよって抱きしめてくれる。
おぉ、すごいっすね」
冷静にシュウさんがまとめてくれる。すごい。
神に憤られるのが、すこし誇らしくなった。
帰りはその興奮のまま、
ジョージと肩を組んで歌いながら帰った。
「しゅはわが かいぬし われとぼしからじ~♪」