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小説 創世記 10章

10章

それから5年が過ぎた。
一雄とイブキは18になった。

ノアとアカネには三人の子が生まれた。
ノアたちの共同体はどんどん大きくなっていた。
牧場も敷地を広げ、また別の場所にも牧場を作った。

街は活気を取り戻し、多くの人は仕事を取り戻した。
牧場にもたくさんの人が住み、共に過ごした。
昼間は子どもたちが家畜と共に遊び、夜は大人たちも加わって共に飲んで食って騒いだ。

ノアとアカネは子どもたちの先生となった。
そこには一雄とイブキもいた。

ノアは世界のことをたくさん知っていた。
アカネは日本のことをたくさん教えた。
アカネが知らない歴史は、アカネが知っているおばあちゃんを連れてきて教えてくれた。
ノアは歴史が一番大切だと言った。
そしてノアはそれぞれの子どもたちの歴史、その家族の歴史を知りたがった。

ノアは先生であり、生徒となった。

ある時、ノアは世界の始まりの話をした。
「みなさん、この世界はとても大きいです。
 この世界はとっても美しいです。
 この世界はとってもとっても不思議です。

 わたしが小さい頃から聞いていた神様の話はこうです。

 『光、あれ』
 その言葉で世界は始まったと。
 真っ暗で何もなかった天と地に、光の粒が溢れ、時が流れだしたと。
 そして、、、」

一雄はギョッとした。
空襲の後に聞いた声、
その言葉も、順番も、全くその通りではないか。
おお、、、あれが神様、、、
隣のイブキはポカンと口を開けながら聞いている。

「そして神様は言いました。
 『人は1人では生きていけない、だからパートナーを与えよう』と。

 そして神様は人を男と女とに造ったんです。
 その二人はお父さんとお母さんを離れ、一体となるんです。
 裸を見てるけど、恥ずかしいとは思わないんです」

一雄を涙ぐみ、イブキの肩をガシッと抱いた。
イブキは驚いて一雄の方を見たが、一雄はイブキの方を向かなかった。
ニヤリとしてそのまま前を向いた。

やっぱりお前は神様がくれた相棒だったのか。
一雄にとってイブキは、もう兄弟以上、一心同体の仲間だった。
ノアの牧場に来てからたくさんの友はできたが、イブキは特別だった。
それもあの日、河川敷で裸の心を見せ合ったからか。
イブキの前では何も恥ずかしくなかったのだ。

その日から一雄は、
神様が自分とイブキに何か大きな計画を持っているんじゃないかと考え始めた。
また寝る前に、小さな絵を描くことを始めた。

ノアに教えられて、子どもたちはたくさんのことを学んだ。
しかし、ろくに学んだことのなかった一雄とイブキが一番、その授業を楽しんでいたかもしれない。
子どもたちはその2人を見て、楽しむということを学んだ。

時にノアは狩りも教えた。
罠の張り方や殺し方。捌き方や料理の仕方。

またノアは、いくつかの言語を知っていた。
日本語が一番難しいと言った。
そして子どもたちは自分がノアに教えられることを喜んだ。

平和と安心の中で、牧場は大きく大きくなっていった。

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