小説 創世記 12章a
12章a
一雄はまた声を聞いた。
「北へ行け。
おまえはおまえの家族を離れて北へ行け」
大きく、腹の中で響く声。
一雄はすぐに「はい」と言ってヒメとイブキに伝えた。
ちょうどその頃、ヒメの両親たちは新たな産業のアイデアとノウハウを得ていた。
そこで一雄たちと両親たちは別の道を行くことにした。
一雄たちは北、大阪へ、両親たちは南、牧場のあるあの町へ行くこととなった。
ノアから与えられた様々な知識は、三人の旅には十分だった。
イブキと二人だったときよりも格段に過ごしやすく、腹も満たされた。
ゆっくりと移動を続けていった。
ある村に入った。
その村は、村というには広大で、豊かな村だった。
低地にある大きな川の下流の「河南」という村だった。
ヒメはその村をとても気に入った。
「わたし、ここで絵を描きたい!」
そう言ったので、しばらくここに住むことにした。
初めに話しかけた村の人と仲良くなって、家畜の世話をする代わりに家を一軒貸してくれた。
また、牧場で学んだことを教えることもできた。やはりノアの知識はすごかったらしい。村の人たちがどんどん集まってきた。
一雄とヒメ、イブキで別々の家を与えてくれた。
「おまえの家族にここを与える」
その夜に声がした。
次の朝、三人で石を積み上げて記念の碑を作った。
平和な生活が始まった。
ヒメはたくさんの絵を描いた。
描いたそばから村の人にあげていた。
彼女が一番早く村に溶け込み、人気者になった。
イブキもどんどん村で顔が広くなり、情報網を張り巡らしていった。
おじいちゃんおばあちゃんと仲良くなるのがうまく、たくさんの食べ物をもらってきてくれた。
一雄は教えるのがうまかった。
イブキやヒメが仲良くなった人を一雄が優しく教えた。
焦らない一雄の性格は人々を癒した。
一雄は河南村だけじゃなく、他の村にも教えに行くことにもなった。
数日かけて旅をすることもあった。
村は食べ物に溢れ、ゆったりとした時間が流れていった。