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「天才とホームレス」 第17話 『てっぺいと過去』
大阪の汚ない街で生まれた。
小学校に入った頃、父ちゃんが死んだ。
おれは死んだの意味がわからんくて、
周りがワンワン泣いてるのが不思議で、
ずっと父ちゃんの仕事場にあった機械の絵を描き続けた。
1年後、母ちゃんが働き始めた。
父ちゃんの写真の前で泣くことがなくなった。
でもおれと一緒にいる時間も少なくなった。
おれは寂しかった。
その頃おれはおっちゃんと会った。
おっちゃんは黙ってそばにおらせてくれた。
大阪の河川敷にある家で。
そしたらある日、母ちゃんが倒れた。
学校で、授業中に、先生が教室に飛び込んできて、
「はよ病院に行け!」
って言われた。
何が起こってるかわからんかった。
わからんかったけど、病院に向かうタクシーの中で、
胸が苦しくて、涙が止まらんかった。
その日から母ちゃんが入院した。
病院に近いとこに住んでた友達の家にお世話になることになった。
初めは楽しかったけど、しばらくしたら気まずくなった。
友達もその両親も、めっちゃいい人で、めちゃくちゃ優しくしてくれた。
何不自由なく過ごした。
でも、それが苦しくなった。
いっぱいおっちゃんの隣にいた。
おっちゃんはおれが話すこと以外、何も聞いてこんかった。
結局、友達の家は1ヶ月ぐらいで、入院も長引きそうだったから親戚の家に行くことになった。
病院とおっちゃんのところが少し遠くなった。
でも学校には電車で通うことになったから、病院にもおっちゃんのところにも毎日行けた。
そんな時に、おっちゃんが東京に行くことになった。
一番泣いた。
親戚の家では一人だった。
あまり帰ってこない人たちで、困ったことがあったら頼れと言われたけど、頼れなかった。
おっちゃんがいなくなったところで、おっちゃんの真似をした。
全部おっちゃんの真似をした。
必死におっちゃんのやってたことと言葉を思い出した。
そしたらとりあえず、食べるものには困らなかった。
そして助けてくれる大人がたくさんいた。
みんなおっちゃんの友達だった。
そして12歳の春、母ちゃんが死んだ。
その後のことはあんまり覚えてない。
知らん間に東京におった。
じいちゃんとばあちゃんとおった。
ずっとぼーっとしてたような気もするし、
ずっとなんかをしてたような気もする。
そんで1ヶ月ぐらい経った頃、
家の中が暑くて暑くて外に出た。
なんやわからんけど、おっきい川の方に足が向いた。
そしたらここにも、大阪のに似たおっきい河川敷があった。
そして見慣れたブルーシートの家があった。
その時なぁ、久しぶりに笑ったなぁ。
それでまたおっちゃんと再会したんや。
おっちゃんはあんまり驚いてなかったな。
でもおれを見つけて猛ダッシュで向かってきて、
めっちゃ強く抱きしめてくれたなぁ。
あんなおっちゃん初めて見たな。
そこからはおまえの知ってる通りや。
学校行って、いろいろあって、今や。
おっちゃんと再会してな、
そこからやっと正気に戻ったんや。
そしたらな、じいちゃんとばあちゃんのこと、めっちゃ好きやって気づいてな。
じいちゃんは和太鼓職人やねん。
めっちゃかっこいいで。
じいちゃんとばあちゃんはな、
母ちゃんが死んで、おれがこっちに来た時、
ずっと放っといてくれてん。
おれはそれなぁ、めっちゃ好きやと思ってん。
おれのこと、見守りながら、
あったかいご飯を食べさせてくれてた。
なんかそれはめっちゃ覚えてるねん。
なぁ、ゆきや。
祭りにじいちゃんとばあちゃんに来てほしい。
おれ、来てほしいよ。
「そうか。
来てもらおう。それがいいよ」
「祭りの真ん中に和太鼓置けへんかな?
あとばあちゃんのおにぎりと」
「うん。絶対に置こう」
あの神父に相談したら、目を輝かせて賛成してくれた。
そしてじいちゃんの和太鼓の前で、両手を広げて祈っていた。
大きな声でゴスペルも歌いだした。
ばあちゃんがびっくりしていた。
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