小説 詩篇 2篇
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今日も大学は賑わっていた。
新入生を盛ん勧誘する先輩たちに、
はしゃぐ後輩たち。
どうしてあんなに騒いでるんだろう。
どうして、なにを企んでるんだろう。
僕が感じる虚しさは、いったいなんなんだろう。
足を進めると、僕も取り囲まれた。
「ぜひ来てね!」
と、心のこもっていない、数えきれないほど吐いたであろう言葉が聞こえる。
「そんなことでいいのか君は!」
「せっかく大学に来たんだから楽しまないと!」
「女の子と遊びたいだろ?」
すべての言葉にすこしずつ惹かれた。
そんな誘惑の枷を断ち切るように、黙ってその場を立ち去った。
先輩たちの失望の目が背中に刺さる思いだ。
学内の木漏れ日の綺麗なカフェテラスに座り一息ついた。
ふとケータイのアプリで聖書を開いた。
『天に座する者は笑い、主は彼らを嘲られるであろう』
その言葉が表示される。
ドキッとして、その章の全体を表示する。
『そして主は憤りをもって彼らに語り、激しい怒りをもって彼らを恐れ惑わせて言われる、
「わたしはわが王を聖なる山シオンに立てた」と』
幼い頃から教会に連れられていた僕は、この王がイエスキリストであることを知っている。
なるほど、主は神様で、王はイエス様か。
嘲られるというイメージはあまり当てはまらなかった。
一度、顔を上げて学内を見回す。
そしてまた聖書に戻る。
不思議と、その次の言葉は大きく響いた。
『おまえはわたしの子だ。
きょう、わたしはおまえを生んだ』
また顔を上げた。
そうか、王は僕か。
目の前に広がる景色は広く美しかった。
その景色を見ながら心の中で祈った。
「神様、わたしに知恵を与えてください。
わたしが焦らないようにしてください。
あなたが王です。
わたしの王です。
わたしの目の前にいる彼らもまた、悟ることができますように。
苦しみのなかを通る前に」
また歩き出した僕は、やはり広く感じる景色が、自分の目線が高いせいであることに気づいた。
背筋が伸びているのだ。
「しあわせだなぁ」
一人でニヤけた。
「おまえはわたしの子」と言われたことがとても嬉しかった。
雨が降ってきたから傘をさした。