小説 創世記 14章
14章
カイは王国を築いていた。
カイが大阪の街を支配していた頃の組織『バビロン』は解散する。
それに取って代わる組織は即座に、その領域を奪っていった。
結局、人々にとっては、
支配される組織が代わり、街が少し物騒になっただけで、大した変化はなかった。
カイは蘇土村(そどむら)の長となっていた。
村が豊かになったのはカイの商才のおかげだった。
カイは村の若者たちを力で従えて、すぐに村を支配した。
イブキと吾村(ごむら)は順調に豊かになっていた。
来た時は知らなかったがその隣には別の集落があり、そこと一つの村としてやっていくことになった。
村の名前は吾村とされ、長にはその集落の長老がなった。
村には不正が蔓延っていた。
その中でイブキたちは懸命に戦った。
長老はカイと繋がっていた。
そのため村にはカイの兵隊がたくさんいた。
カイは周りの村にどんどん手を広げ、若い男たちを鍛え上げた。
いったいをすっかり染めあげてしまった。
バビロンにとって代わったのは永劫会というヤクザたちだった。
その情報はカイが村に住んで数年後に届いた。
カイは取り返しを企てた。
永劫会は神戸にあった組織で、カイたちが消えてから大阪に進出し、巨大組織になっていた。
配下には、これもまた大きい三つの組があり、どんどん勢力を拡大していた。
その勢力は蘇土村や吾村まで届こうとしていた。
カイは彼らを攻める算段を立てる。
武器を入手し、金を集めた。
派手な抗争を始めよう。
巨大な組織を相手にするには、短期決戦しか勝ち目はないことを、カイは知っていた。
村の近くの川の上流に大きな谷があった。
そこにかけられている橋を渡って、幹部たちが兵隊を引き連れて村々を偵察にくるという情報が入った。
そこで待ち伏せて幹部を人質に取ることにした。
決行の日。
橋を渡った先の森に潜むカイたち。
予定通りに大勢のヤクザたちが谷を通る。
とその時、後ろからヤクザの伏兵たちがカイたちを取り囲んだ。
情報は操作されていた。
カイはまた逃げることとなった。
永劫会は蘇土村と吾村の財産をことごとく奪った。
イブキたちの財産も家畜も全て奪われてしまった。
彼らには今まで何も知らされておらず、急に全てを奪われたのだった。
その上、イブキはその村の有力者として連れて行かれてしまった。
多くの財産と人望を持っていたからだ。
そこで一人の男がなんとか村から逃げ出し、一雄のところまで来た。
そしてすべてを伝えた。
一雄の心臓がぎゅうっとなった。
そしてすぐに旅の支度をした。
若い衆を連れて大阪へ向かった。
少ない可能性に賭けて、大阪にいたあのヤクザ者(12章参照)に会うためだ。
数日かけて大阪に着いた。
すぐにあの男の事務所に駆け込む。
「おお!お前か!どないしたんや!」
彼は歓迎してくれた。
すべてを説明すると、彼の顔色が変わった。
しばらく考え込み、手下のものに命令を出した。
手下は驚いた顔をして、すぐに走って外に出た。
「おい、お前はいっつも大変なことしてくれるのぉ」
そう低い声を出した。
「すみません。でも、お願いします」
ひるむことなく一雄が言った。
にやりと笑って男は言った。
「お前の親友の村を襲ったんは俺の組じゃ」
一雄はグッと睨んだ。
「おい、睨むなや。
お前にはあの夜、負けとんじゃ。
全部返すわい。全部や。
でもお前に返すんぞ。俺が負けんのはお前にだけじゃ」
そう言って一同をホテルに送らせた。
次の日の朝、
ノックされたドアを開けると、イブキが立っていた。
「よぉ」
そう言ったイブキの前で一雄は泣き崩れた。
「おれも大阪にいたんだよ。
ごめんなぁ。心配かけて」
「よかった、、、本当によかった、、、」
たくさん泣いて、たくさん抱きしめた。
イブキも泣いていた。
夜、一雄の元に全てが返されたという報告があった。
河南村の家に全てが置かれていると。
イブキの財産も返された。
その仲間達の財産も、全て。
また数日かけて村に戻った。
その時、一雄とイブキをカイが出迎えた。
カイは地面に膝をついて二人に深い礼をした。
そしてそこに平安町の長である、我王義久(がおうよしひさ)が来た。
彼は人々に尊敬され、多くの争いの仲裁をし、名君と言われた。
彼は否定したが、人々からは神の子と評された。
彼は一雄の頭に手を置き祈った。
「この男に祝福があるように。
最も高い神、天と地を造られた方の祝福が。
その方が褒め称えられるように。
敵を彼の手に渡された方が」
一雄は全てのものの十分の一を我王に与えた。そうしなければならないと思ったのだ。
その量は膨大で、我王は何度かに分けて取りに来ると言って帰っていった。
カイは一雄に言った。
「財産はあなたに差し上げます。ただ村は返してください。お願いします」
一雄は言った。
「僕はあなたから、何一つ取り上げない。
最も高い方、天と地を造られた方に誓う。
あなたのもので、僕が富むことはない。
僕を富ませるのは神であってあなたじゃない。
ただし、僕と一緒に戦ってくれた、大阪に来てくれた彼らには、報酬をやっておくれ」
そう言って皆、元の村に戻っていった。