サロン乗る場のつくりかた【ふるまい】その3
サロン乗る場は、リラクゼーションサービスの提供を上演として捉え直し、リラクゼーションサービスを構成する要素を円盤に乗る場に参加するアーティストたちに演出してもらい、それを俳優・辻村優子が実践する、リラクゼーションサロンの形態をした演劇作品です。
上演は3月25日に終了しましたが、その創作プロセスのレポートである当シリーズ「サロン乗る場のつくりかた」はあと少し続きます。
前回までのこと
「ふるまい」担当、渋木すずさん(円盤に乗る派/ちょっとしたパーティー)との稽古、2回目の対面稽古でお話したことを中心に記述した前回の記事。
それはつまり「ちょっとしたパーティー」!!
前回「その2」の最後に登場した「ちょっとしたパーティー」これは、渋木さんがされている活動の名前でもあります。
渋木さんと稽古を進めるにつれ、この短い言葉には、真面目にケを生き、時にハレの日を必要とするわれわれの切実さが凝縮していたのだと感じました。
大々的な年に一回のお祭りじゃなくていい。同じ景色や同じストレスの中で自分の輪郭があいまいになってしまう毎日から、少しだけ自分を浮かび上がらせてくれる何か。例えば、自分のためにレースの下着を買う事。餅つき。観劇。マッサージ。〇〇フェスなんて名前がつかない、ちょっとしたパーティーは、また健やかにケの中に自分を戻す行為であり、日常とは違う世界がある感じ、そこには日常から浮遊するという意味での魔法、みたいなものが存在してるのではないか。
小さな魔法を信じるというライフハック
じゃあ、単に観劇すればケから離陸できるのかって言ったらそうじゃないんじゃないか。劇を見て、その劇の世界を信じて観られる、そこに働いてる魔法に身を委ねられるかどうかってことが大事なんじゃないか。
渋木さんとの話はそんな風に展開していきました。
「そういえば、サロン乗る場の施術に入る前にローズマリーの水を飲むとか、フレグランスを振りまく動作とか、儀式っぽいよね、魔女っぽいよね。」
「マンツーマンのパフォーマンスで儀式っぽさ強いとちょっとやばいかな。」
「でもそれが日常から離れた世界に行く感じっぽい」
「でもそのフィクションを前景化させたいわけじゃない」
魔女ってなんだ?
いわゆるおとぎ話に出てくるような魔女じゃなくて。日常の中でも「あれ?あの人なんであんな事できるんだろう」みたいなことってないですか?あの人と会うと元気になるとか、あそこに行くと世界が明るくなるとか。ちょっとしたことなんだけど理屈では説明できないこと。一回の奇跡じゃなくてそれを何回でも同じように体験させられるとしたら、それはもう魔法って呼んでいいんじゃないだろうか。
ふるまいその2でも登場した社会に溶けて輪郭を失っている状態から、自分を切り分けて形を取り戻すこと。BGMのカゲヤマさんの音楽の車内アナウンスのアイデアも相まって、電車に乗ると椅子に座ったままなのに次にドアが開いた時は違う駅に着くように、同じ場所にいながら世界線が乗り替わるイメージ。
サロン乗る場とは「リラクゼーションサロンの体をとったパラレルへの移行装置」みたいなフィクションが、渋木さんと私の間に立ち上がりました。
これがサロン乗る場のおもてなしかもしれない
フィクションが立ち上がるとすぐに、そのパラレル移行装置の水先案内人としての「乗る場のつじこ」を演じるというふるまい方の方向性も立ち上がりました。来た人が「自分はここにいる」と感じられるための私のふるまい。それはあくまで淡々と、お店のようなおもてなしではなく日常の延長のような雰囲気に、薄ーく目端を利かせているような態度ではないだろうか。
「サロン乗る場」というフィクション
当たり前のことだけどパラレルの移行装置としてのリラクゼーションサロンなんて世間にはないし、その水先案内人としてのセラピストも存在しない。存在しない、といいつつ、演劇だからつくってしまえる。劇場の椅子に座ったお客さんにはその「ありえない」を一旦放棄してもらって「そうなのかもしれない」にお付き合いいただく。視覚セクションで設えていただいた中村さんの室内レイアウトの効果がこの段階になって太い線となって繋がります。入ってすぐの受け付けはまだ「ケ」の世界。待合のソファに座っていただくとお客さんの視界には受付と施術スペースの両方が入る。このタイミングを使ってお客さんの意識を日常の世界から上演世界に持っていけないだろうか。
具体的にどうパラレルに移行するか
例えば、お客さんがソファに座った時に一度暗転を挟むとか。というアイデアが出た時にあらためてプロセニアム舞台の暗転の効果って強烈に儀式的かつ効果的なことだったのだなー!と気づきました。一旦全部消灯してみたら、セラピストと二人の空間でいきなり真っ暗闇怖すぎ!ってなってボツりかけたけど、そこはスタンドライトとフェーダーの工夫でなんとか形に。
通し稽古!
ふるまいの稽古についてとっても長くなりました。ここまで読んでくださってありがとうございます。ふるまい稽古の何がこんなにボリューミーだったかって、サロン乗る場におけるリラクゼーションサービスの定義から、単なるサロンの実践ではなくそこにフィクションを敷いて二重性を持たせようとしたこと。そのアイデアにたどり着くまでにとにかく時間と言葉を費やしました。
で、ついに通し稽古です。ここからは実際にどうやって演技プランを立てて実践したかをお話して、おしまいにしますね。
「サロン乗る場の作り方ふるまいその1」の最後に辻村に課された宿題。普段のアルバイトで接客のために行っている事を書き出したリスト。まずこのリストに書かれた事をひとつひとつ「サロン乗る場なら」と置き換え整理して、お客さんの受け入れ手順を考えました。次に、「お客さんに聞いておいた方がいい事」それから先ほど考えた「サロン乗る場なら」の段取りをリストアップ。これらを一旦覚えてやってみる。
渋木さんにお客さん役をしていただいた通し稽古の後の細かなフィードバック。もうここまできたら普通の演劇のチェックとさほど変わらない細かな調整段階です。とはいえ前例のないサロンの形態をした上演作品。その形を追おうとすると消えてしまうささやかな魔法のようなところがありました。
これで「サロン乗る場」の稽古はおわった!!
3月25日に終了したサロン乗る場ですが、ようやく…ようやく稽古の記録はこれでおしまいです。
が、実はあと一つ、続きがあります。
それは「メンテナンス」!
実際に運営をはじめお客様への上演を繰り返すうちに、作品の質が変容するという事態が発生しました。
演劇公演でも、興行が長期にわたるとその質感を保持することは難しかったりするんじゃないか。俳優としてのこれまでの経験とも重なるできごとでしたので、それについて書いておきたい!
で、今度こそ「サロン乗る場のつくりかた」は最終回です!