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【エッセイ】寄り添ってくれる一杯・私のお気に入りの珈琲【長崎県壱岐市】
最近、自分好みの珈琲が飲める場所を見つけた。
珈琲が好きな人は世界中にいるだろう。私もその一人で、朝起きてからも仕事中も寝る前も、とりあえず珈琲を飲んでしまう。
旅行の計画を立てる時も、その土地の人気の喫茶店を探してどうにか予定に組み込めないか考える。好きなものと思い出をセットでとっておきたいし、「あそこで飲んだ珈琲美味しかったな」と写真を見ながら思い出すのも好きだ。
私の地元は離島ながら、ここ最近カフェが増えている。それぞれ味わいや雰囲気も異なっているので、休みの日に足を運ぶことも多い。
やっと見つけたお気に入りの珈琲
そんな中で見つけた最近のお気に入りは「しまもり珈琲」さん。コワーキングスペース「クロスポート武生水」の一角で珈琲を提供している。
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しまもり珈琲さんの珈琲は、他の珈琲よりもまろやかで柔らかい。酸味が少なく、一口飲むたびに、珈琲ならではのコクと苦味がゆっくりと広がっていく。
作業を始める朝の始まりも、疲れ切った時の一息で飲むときも、心地よく寄り添ってくれる優しい味わいだ。
私がクロスポート武生水さんで作業する時は、何かしらの準備で追われている時が多いのだが、そんな時はしまもり珈琲さんのブラックを必ず頼むようにしている。
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角のない、穏やかな味わいの珈琲を飲むと、焦っていて落ち着きのない自分自身が少しずつ溶けていく。
よし、頑張ってみよう。そんな風にちょっと前向きな気持ちに切り替えることができるから、私はここの珈琲が手放せない。
気持ちをほぐしてくれる一杯
一度、自分が主催しているイベントの調整や今後の方向性について、自分の中で迷いに迷ってしまい、どうしていいか分からないまま、クロスポート武生水さんを訪れた。
そしてワーキングスペースに座ったものの、やろうと思っていた作業に必要なものを忘れていたことに気づく。
ああもう、時間がないのに。何やってるんだろう。
そう思いながら、しばらくスマホを眺めながらぼーっとして、とりあえず珈琲飲もうかな……と思い立った。
その時頼んだのはカフェモカ。自分への慰め半分、甘いものがどうしても飲みたかったのだ。
じめじめとした気持ちのまま、しまもり珈琲さんが作ってくれたカフェモカを受け取り、口づける。
瞬間、気持ちがほろっと崩れたのが分かった。
甘すぎず、珈琲のコク深さもバランス良く感じられる。ココアの香りも相まって普段のブラックよりも、もっと身体の中にじわじわと、ゆっくり染み渡っていくようだった。
美味しい。そう思いながら飲み進めるうちに、自分への苛立ちでとげとげしていた部分がほぐれていった。
ワーキングスペースから、珈琲を淹れている時の様子も見ることができる。ゆっくり、丁寧に淹れているのが遠目からみても分かった。ああやって淹れてもらっているから、いつも美味しいんだろうな。
そこまで思い至ってから、あんまり見るのも失礼だと思い直し、慌てて自分の手元にある手帳に視線を移した。
その時にはもう、次に自分がすべきことを考え直す余裕が少しだけ生まれたことが自分でも分かった。
あの時からずっと、しまもり珈琲さんの一杯は、私にとって小説を書くときや何か大事な作業をする前に欠かせない存在になっている。
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珈琲を淹れるときの思い
通っているうちに仲良くなり、店主さんに珈琲を淹れている時の気持ちについて聞いてみたことがある。
「飲むよりも淹れている時が好き。豆を焼いているときと淹れている時が香りが強いから。私が一番幸せを感じているかも。」
「カフェラテのエスプレッソもミルクもきれいに淹れられた時があって。自分でも「これ絶対美味しく淹れられた!」って思っていたら、それを提供したお客さんからも「美味しいです」って言ってもらえた時は嬉しかったな。
それから絶対美味しいって言ってもらえるように淹れようって思いながら淹れています。」
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しまもり珈琲さんの焙煎は「アームズメソッド」という、豆を50℃で湯洗いしている方法を取り入れているそう。洗うことで、豆の汚れや品質の悪い豆も取り除くことができる。
また、冷めても美味しく飲めるのも大きな特徴の一つ。コワーキングスペースで作業しながら飲む人が多いことを考えると、クロスポート武生水さんで販売していることにもぴったりだ。
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しまもり珈琲さんのドリップバッグを家で淹れてみたことがある。言うまでもなく、淹れてもらったものの方が何倍も美味しいけれど、部屋着でのんびりしながら飲むしまもり珈琲さんのブラックはまた格別だった。
身体がちょっと緩んでしまうような、毛布にくるまれている時と同じような安心感。
「皆が飲む珈琲が充実してほしい。珈琲って日常に幸せを足せるものだから‥‥‥カフェで飲むのも良いけれど、豆とかドリップバッグで買って、家でも楽しんでもらえたら。皆さんが飲む珈琲が充実してほしいですね」
そんな風にお話してくれたしまもり珈琲さんの言葉が頭に浮かぶ。日常で飲む珈琲は、私にとってはスイッチの一つだ。何かを始める合図、気持ちを落ち着けるため、自分へのご褒美。
その時に美味しい珈琲が飲めれば、それだけでもう何だか色々あっても上手くいきそうな気持ちでそこから先を進むことができる。
私に安心と、先に進むための穏やかな時間を提供してくれる珈琲。今日も傍らで励ましてもらいながら、私も少しずつ前に進んでいけたらいい。
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写真提供