辻村 いち
毎日800字書くための日記です。
1万字以下のショートストーリーです。
自由に書いているエッセイ集です。
電子書籍を出版した際にお知らせします。
読んでいて楽しかった・面白かった小説について、好き勝手に綴る、大人の読書感想文です。
こつん、と信也の左肩に頭を寄せた。 何度も嗅いだ柔軟剤の匂い。見上げると、出会った時よりも緩やかになった頬のラインが目に入る。その柔らかな曲線を人差し指の腹でそっとなぞる。 「…何?」 怪訝そうな声が降ってきた。信也は自身の体型の変化を誰よりも気にしている。私は別にそれを指摘したかったわけじゃないけれど、彼はそう捉えたのかもしれない。 「別にぃ」 私の呑気な声に、何だよそれ、と呆れながら、信也は私の体重がかかった頭を押し返そうとする。 「もう最後だからさ、堪能しよう
まさかこんなギリギリで宣伝することになるとは思っていませんでしたが、明日(2024年10月27日(日))開催の文学フリマ福岡10に出展します! 【お品書き】 〇Calling(小説・既刊)200円 〇星と踊るひつじたち(小説・文学フリマでは初)100円 〇踊り場の窓から月を見る(エッセイ・初出)100円 過去最高にドタバタしているのですが、文学フリマでは初めてエッセイを出展します。お手にとっていただければ幸いです。 文学フリマに出展される皆様・来場予定の皆様、どうぞよろ
私が住んでいる地域は、夜空いている喫茶店が少ない。けれど、今日はどうしても一人で珈琲を飲みながら本を読む時間が欲しかった。家で一人部屋に籠って自分で珈琲を淹れればお金もかからないけれど、喫茶店という空間にいるのが大事だということが往々にしてある。 職場から坂を下り、21時までやっている喫茶店へと足を運んだ。ドアを開けた瞬間に、「カランコロン」と軽快な音で迎え入れられた。客は私一人だった。 席について、珈琲を飲む。読みたかった電子書籍をひたすら目で追った。本が好きだと言いな
最近、夜に40分程度歩くようにしている。歩き始めるのはいつも大体22時過ぎ。田舎だからとても静かだ。その静かさが怖いので、いつもイヤホンを通して音楽かAudibleを聴いて気を紛らわそうとしている。 それが、今日は途中で音楽を聴くのをやめた。星があまりにも綺麗だったからだ。 お菓子の箱の中の化繊紙みたいな夜空だった。薄い藍色に満遍なく、星が瞬いている。一面が星で覆われているような夜空は久しぶりで、それを見つめることに集中したくなって音楽を止めた。ずっと見上げていたせいで、
最近、何年も会っていなかった人と約束を取り付けて会う機会が2回ほどあった。 高円寺の小さなビストロで出会った料理人見習いのお兄さんは、今は銀座の人気店でシェフをしていた。出会った頃は3歳だった男の子は、小学校6年生になっていた。 変わってしまった部分と変わらない部分が混在している。社会的な立場は変わっていても、核になる雰囲気は皆あまり変化がなかった。 たまに行く同窓会でも同じようなことを感じるから、きっと皆そうなんだ。だから久しぶりの再会でも、すぐにいつかの続きみたいに
今日は仕事から帰ったら昏々と寝ていた。 今週は旅行→深夜残業→出張→深夜残業というスケジュールだったせいか、布団に横になった途端に体が強制シャットダウンしたかのようだった。 目が覚めたのは3時間後で、寝すぎた、と即座に思い知った。何とか起き上がったものの、体がこちこちに固まっている。怠さを伴う頭痛と、汗ばむ体の気持ち悪さを誤魔化すためにテレビをつけた。 サッポロビールのCMが流れてきた。「丸くなるな、星になれ」ってやつ。お正月によく流れてくるあれです。 見たことある方
今日はハリー・ポッタースタジオツアーに行ってみた。 私は小学生の頃、ハリー・ポッターに狂っていた。当時の習い事(そろばん)を途中で放棄してまで読んだ本は初めでだった。続きが気になりすぎて、読む手を止めたくなかった。あの時の世界観に一気に引き込まれていく高揚感を忘れることができない。 映画のDVDは何度見ただろう。賢者の石と秘密の部屋は特典ディスクの隠しコマンドを探しきって、それすらも何回も見た。よもや台詞を覚える勢いだったし、何ならサントラを購入して毎日のように聴いていた
諸用で東京に行くとき、「私は本当にここ住んでたんだっけ」と思うようになったことに気付く。 実際に住んでいたのは10年も前の話で、暮らしていたのもたった4年間だった。電車の路線も忘れかけているし、駅構内でぐるぐる迷ってしまう。(いや、それは住んでた時も迷ってたかも…) 私が東京出てくるきっかけは大学進学だった。もっと遡って言うと、幼い頃から父に「お前は慶応入れ」と言われて育ったことによる。 日本でも指折りの田舎に住んでいながら、最難関私立大学に合格するビジョンが見えなくて
最近、何も考えなくても楽しめるエンタメを探している。 20過ぎた頃からだろうか、映画でも小説でも何でも「どうせならちょっとメッセージ性のあるものを読みたいな〜」という気分で作品を選んでいる気がする。 それは当時、ちょっと背伸びをしていたような側面もあるし、Twitter(あえてXと書かない)にどっぷりハマっていたこともあり、タイムライン上に流れてくる作品の口コミから気になるものを探す、というのがお決まりになっていたからかもしれない。 SNSで流行る作品というのは社会問題
昨日今日と22時過ぎまで仕事をしていたので、何だか体がぐったりしている。気を抜くとそのまま睡魔にやられそう。 眠たくなると、最近よく大学生の頃のことを思い出す。 あの頃は友達とよくお茶をしていた。当たり前だけれど東京にはカフェが至るところにあって、私たちには何の生産性もない話をしつづけられるだけの時間と友情があった。 「一番安いからベローチェにしよ」と言った時もあったし、とにかくお洒落でセンスの良いとされる喫茶店にうきうきしながら入った時もあった。 吉祥寺に、お気に入
7月が終わっちゃうなあ。 今月はずっと、Mrs.GREEN APPLEを聴いていた。元々知ってはいたけれど「聞いたことある」程度の認識。それが例の炎上騒ぎがきっかけで、曲をちゃんと聞いてみることにしたのだ。(そんなきっかけで…とは我ながら思う) 彼らの曲はとにかく肯定してくれる。 「生まれ変わるならまた私だね」(ケセラセラ) 「この世界はダンスホール あなたが主役のダンスホール」(ダンスホール) 曲調も相まって、自然と前向きな気持ちを思い出させてくれる。詳細は
ここ数年ずっと、「今の自分を楽にするため」の選択を重要視している気がする。 例えばむしゃくしゃする気持ちを沈めるためにコンビニでテキトーにお菓子を買って食べてみる、とか。簡単に言えば。本当にお菓子を食べたいのではなくて、「沈んでいる自分のケアは自分でしなくては」という思いから、そういう行動を繰り返してきた。 でも何となく、最近は未来の自分に優しくしたいなと思っている。 落ち込んでいる自分をケアするための行動が、結果として未来の自分を苦しめる時だってある。「キツ
今日は10zine(福岡のzineイベント)の打ち上げ(のようなお茶会)に参加した後、「ブックバーひつじが」さんに初めて足を運びました。 ブックバー、というだけあって、絵本から漫画、小説、zineがずらりと並んでいる空間。本好きにはたまりません。 最初は一人で飲んでいましたが、途中から3人のお客様がご来店。常連さんのご様子だったので、「邪魔したら悪いかな〜」と思って帰ろうとした時。 「あ、こちら、絵本作家さんと出版社にお勤めの方なんです」 なんですって??? 慌てて
人の言葉が、物質となって見えるようになった。 そんなことを言うと、頭がおかしくなったと思われるに決まっている。だから絶対に私はそれを人に言うまいと決意を固めた。生まれてこの方、意志薄弱を絵に描いたような生き方をしてきた私でも、流石に最低限の思慮分別は身に着けている。恐らくは。 他人からどうやっても理解されそうにないが、それは同時に確かに事実なのだからしょうがない。 『人の言葉が物質となって見える』。 もっと分かりやすく言えばそう、誰かが発言する度に、ぽろぽろと何かしらの
ゆっくりと瞼を開く。微睡んでいた私の脳内が、ありとあらゆる刺激物に一瞬にして晒されてしまった。否が応でも現実に引き戻される。いつの間にか布団から出てしまっていたらしい、足の指先を擦り合わせた。 20数年酷使した結果、固くなってしまったその皮膚の感触が、確かに自分の肉体であることを指し示している。 そこまで思い至り、ようやく私は完全に睡魔と決別し、目の前の出来事と直面することとなった。 淡く黄色い、蛍光灯。薄い敷布団の上に、申し訳程度にかけられた使い古された薄っぺらい毛布
Amazon Kindleで、電子書籍を出版しました。文学フリマ東京で出店したものと同作品です。価格も文学フリマと同じ200円。 ただし、もしKindle Unlimited(Amazonの電子書籍定額読み放題サービス)に加入している方は無料で読めちゃいます! あらすじ引きこもり気味の女子高生 麻美は、とあるきっかけで、近所に住む小学生 萌と、中学生の頃担任だった高原と再会する。 高原は、受け持つクラスの生徒と思われる人物からSNSの嫌がらせを受けており、萌は母親からの