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ぼくには変なクセがある。 【1000字と1枚】

ぼくには変なクセがあります。

それに気づいたのは大学1年生の6月ごろでした。体育とドイツ語のクラスが同じだった大学の友だちがひとり暮らしをする湘南台の家に泊まらせてもらったときのことです。シャワーを浴びて、頭を拭きながら出てきたら、友だちに「おまえなんかしゃべってなかった?」と言われました。


え?


しゃべってたんです。しゃべってたんですよ。シャワーを浴びながらひとりで。でもしゃべってる意識はないんです。この、意識はないけど不意にしゃべってしまう、というのがぼくの変なクセです。詳しく説明します。

生きていると、なんであんなことしちゃったんだろ、なんであそこで怒らなかったんだろ、みたいないろんな後悔がありますよね。ぼくはよくシャワーを浴びてるときにそういう後悔をします。

そこで、もし、あの場面でこんな一言を言っていたら、あんな行動をとっていたら、そのあとどうなっていたんだろう、というイメージがふくらんでいきます。そのイメージにどんどん入り込んでいくと、自分が出演してる映像を見ているような気持ちになってきます。

そこからさらにイメージに入り込んでいったとき、その映像のなかの自分に現実の自分がだんだんシンクロしていきます。そして映像の自分のセリフを実際にしゃべってしまうことがあるんです。あ! とか、げ! とかではなく、ちょっとしたフレーズを。

そのきっかけは後悔とかネガティブなことだけではなくて、ぜんぜんどうでもいいことのときもあります。頭を使わずに手だけ動かしてればいいような作業をしているときにでがちです。ぜんぜん頻繁ではないですが。いつも不意だから気をつけようがない。しばらく静かにしていたヤツがいきなりしゃべり出すんですから、まわりに人がいたらびっくりしますよね。

入社2年目の春、出張先の新潟で、新入社員の後輩・岡本くんを助手席に乗せて車を運転していました。ほかに車はぜんぜん走ってないし、移動距離も長い。しぜんとぼくは頭の中のイメージに潜り込んでいきました(ちゃんと運転はしてます)。なぜか頭の中では知り合いの書店員さんがスマホで小型犬の写真をぼくに見せてくれるというイメージが広がっていました。

それまでだまって運転していたぼくは急に、「かわいらしいかわいらしい」と言ってしまったんです。頭の中の自分とシンクロして。でも現実のぼくは「かわいらしいかわいらしい」と言ったことには気づいてない。

そのとき、助手席の岡本くんがビクッと動いたんですね。ぼくは、コイツいま変な反応したな、とは思いましたが、そのビクッの意味もわからずそれから2分くらい運転を続けました。

あっ!と思いました。岡本がビクッてしたのはおれがいきなりしゃべったからだ……。

恥ずかしい。恥ずかしすぎる。ぼくは助手席の岡本くんに説明し始めました。さっきおれさ、いきなりしゃべってたよね? そりゃ驚くよな。おれ変なクセがあってさ。変な先輩だと思われたくなくて事細かにクセについて説明しました。ただのクセでさ、べつに変な意味はなくてさ。必死でした。いきなりしゃべったことより必死で弁明するそのようすのほうがきもちわるかったかもしれない。

冒頭の、こんなぼくのクセを指摘してくれた大学の友だちというのが、真空ジェシカの川北茂澄くんです。

朝起きたらわかりやすいきれいな寝グセがついていました。

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