『僕はここにいる……。』
私の住むマンションの近くには、徒歩15秒くらいのところに、
なぜかキャバクラがある。
私はその店に前を通って、よくコンビニに買物に行くのだが、
その際、坊主頭に作務衣、足もとは下駄という、
俗世間の一般人のする格好としては、かなり異様というか、
間違いなく目につきそうな、身なりで出歩いているのだが、
その風貌のせいか、
過去に一度もキャッチのお兄さんに声をかけられたことがない。
それもかれこれ何十回も、そのキャバクラの前の往復しているのにだ……。
いや、べつにキャッチのお兄さんに声をかけられたいわけではない。
そもそも声をかけられたところで、そんなぼったくられそうな場所に、
自ら近づくつもりもなければ、たとえ安全であったとしても、
わざわざ一時の快楽のために、無駄な金を払って、
キャバクラで遊んで行く気など、さらさらないのだが、
こうして店の前を何度も往復しているのだから、
一度くらい声をかけられても良いのではないかと思わないわけでもない。
キャッチのお兄さんたちが、やる気がないというのであれば、
それはそれでいいのだが、
自分以外の通行人が声をかけられていないのかというと、
そういうわけではない。
目の前を歩いていたサラリーマン風の男性には、
しっかり声をかけているのに、
あとから続いてきた自分には、声をかけるつもりもないのか、
見事にスルーされる。
というか、端っから声をかけるつもりがないようで、
自分が目の前を通過するときになると、狙い澄ましたかのように、
決まって仲間内で談笑しはじめるのである。
きっと歩くスピードに問題があるのではないかと思い、
声をかけやすいようにと、キャッチのお兄さんに気を遣って、
何度か目の前をゆっくり歩いてみたりしたことはあるのだが、
やはり声をかけられたことはない……。
風貌に問題があるのかもしれないと思い、
今度はふつうの格好で挑んでみたこともあるが、
やはり声をかけられない……。
何が問題なのか?
それを妻に相談してみると、
「あんたの目つきが悪いんでしょ?」
と一蹴される始末である。
いや、目つきの悪さで言うなら、
キャッチのお兄さんたちのほうが、
数倍悪いだろ!!
まあ、そもそも坊主頭の作務衣に下駄を履いているような、
どこぞの坊さんのような風貌をした人に、
声をかけるキャッチなどいるはずもないか?
私とキャッチのお兄さんとの飽くなき抗争は、まだまだつづく……。
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