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学校から出たことがない人。

わたしには忘れられない先生がいる。

わたしには看護師になるという夢があった。
なぜか幼いころから一貫して、将来の夢は「看護師」と口にしていた。
でもわたしは勉強が好きではなく、大学に行くなど想像できなかった。
だから最短で看護師になれる5年一貫制の高等学校を選択した。
最短で看護師になれることに加えて、公立の高等学校なので学費が格安だ。
専門学校や大学へ行くよりもずっと親孝行である。
ただ、いくら最短で看護師になれるからといっても、高校受験は必須。
成績はわるくなかった。150人ほどいる学年で20番以内には入っていた。

前述したように、わたしは勉強が好きではないので、推薦で受験しようと考えていた。
そのためには校内推薦を受けて、認定されなければならない。
だが、担任は取り合ってくれなかった。
推薦以前に「看護師になりたいのなら、エリートコースに行きなさい」と一蹴される。
この担任のいうエリートコースとは、普通に高校に行って、普通に大学に行けということだ。
出身中学校からは誰も行ったことのない高校だったので、わたしを案じて担任はそう言ったのかもしれない。
でもわたしは諦めなかった。
ーー絶対に受験してやる。
勉強が好きではないわたしが受験勉強を始めた。
珍しい5年一貫の看護師養成のための高等学校なので、倍率が高い。
偏差値も決して低くはなかった。
断固たる決意で志望校を変えないわたしに対して、担任はとても冷たかった。
しかしそこで諦めるわけにはいかないので、わたしも徹底抗戦した。
その姿勢に担任のほうが諦めて、一般受験のときには願書を提出することができた。

先生のいう「普通」ってなんだろう。
普通に高校に行って、大学に行くことが先生にとっての普通なんだろうか。
教員免許を取得するために、大学へ行って単位を取得しながら教育実習をして、卒業論文を書いて。
先生が経験してきたことは普通なのだろうか。
教師になるためであれば「普通」なのかもしれない。

わたしは自分の性格を知っているので、大学は不向きではないかと考えていた。
自分で授業を選択して、単位を管理する。
そういうことが苦手なので、一種の逃げをした。逃げることに掛けた。
15歳で将来をそこまで考えて、
その逃げは幸いにも功を奏したので、わたしは看護師になれた。
看護師になってからの業務は、判断と選択ばかりである。
優柔不断なわたしではあるが、白衣を着ると自分自身に魔法がかかるので、なんでもこなせた。
虫でもお局でもなんでも来いだ。
あ、採血とルートキープは得意です。

話が逸れたが、普通とはなんだろう。
看護師として病院に勤務すると、同僚には様々な生い立ちの人がいた。
わたしと同じく5年一貫制の看護学校を卒業した人。
高校に行って、専門学校を卒業した人。
4年制の大学を卒業した人。
社会人経験してから専門学校に行って看護師免許を取得した人。
看護師免許を取得してから医者を目指した人。
薬剤師になってから医者になった人。
看護助手をしてから看護師を目指した人。
出産してから助産師に憧れて専門学校に通う人。

ほんっとうに様々だ。
4年制の大学を卒業して看護師になった人以外は、担任の普通を逸脱していることになる。
先生、普通ってなんですか?

わたしからしたら、教師は特殊なのではないかと感じる。
小学校から大学まで、ずっと学校だ。実習先も勤務先も学校だ。
人生の大半が学校だ。
それがおかしいとは思わない。なくてはならない職業だから。
子どもの未来のために必要な仕事だ。

教員にとっての「普通」のものさしで、生徒を見ることをしないでほしい。
わたしが勝気な性格であったのが不幸中の幸い、自分で選んだ高校に入学できた。
教師に恭順していたら、わたしの人生はどうだっただろうか。
看護師になる夢は諦めていないとは思う。
しかし、先生のことは一生許せない存在になっていたのではないか。
そんな人生はしんどい。苦しい。

だから、わたしはあの時「エリートコースに進め」と言い放った教師に、感謝して過ごすことにした。

ここ最近、小学生に対する行き過ぎた漢字の指導などに関して、疑問に感じることがある。
教員のしごとは、特に低学年に対する教員のしごとは、勉強するって楽しい!と子どもに感じさせることではなかろうか。
行き過ぎたパフォーマンスは自己満足でしかないし、自慰行為と揶揄されても仕方ないだろう。
やっぱり学校しか見ていないから、世間を見ていないから、視野が狭いから、そういう指導しかできないのかなと感じさせないでほしい。
わたしのあの青春時代は、この「エリートコースに進め」という呪文によって、そういう考えに変わってしまったのである。
でもその呪文はわたしの子どもには伝染させたくない。断ち切りたい。
そう思わせてくれた担任に感謝である。

つぐみ


#忘れられない先生


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