都会育ちが「新規就農」できるのか (1)
阿吽の呼吸
「木が苦しそう」
5年前、「みかん狩り」観光農園の方が、たわわに実った蜜柑の木をそう表現した。鮮やかに色づいた果樹からは、ハッピーな印象しかなかったので驚いた。果実をたくさんつけた木は、妊婦さんのような状態で、負担が大きいから、早く収穫をしなくてはいけないということを、柑橘の生産地に移り住んで7年目の今ならわかる。
農業は家族経営が多く、属人的に受け継がれてきた面が大きい。地域や親族の間で、子どもの頃から手伝わされてきた農作業のなかで、虫や草花、野菜や果樹との言葉では表せない対話を積み重ね、当たり前のように共有されている感覚知があるのだろう。
はじめて畑に種まきしたときは、雑草とまいた野菜の区別がつかなくなった。ヨモギ、タンポポ、シロツメクサ、知っている草の名はほんの少し。草の名を全然知らないことにも気付く。「雑草」という名の草はないのだ。子どもの頃から草花やそれをとりまく生き物に触れ合ってきた人には、世界は違った見え方をしているのだろう。自然のことを知らな過ぎ、「農業」を営むハードルはあまりに高かった。
パーマカルチャーデザイナー・中尾佳貴さんに、「自然農とパーマカルチャー菜園」の講座で言われた自然農を成功させるコツは、人間の都合ではなく植物の都合を優先すること。そして、観察眼を開くこと。つまり、野菜や草花との阿吽の呼吸なのだと思った。しかし、家事や生活費を得るために使う時間で占められがちで、なかなか植物の都合に合わせるのが難しい。
生活費の問題を解消するために、「新規就農」には、さまざまな支援制度があるのだが、私は、「就農準備資金・経営開始資金(農業次世代人材投資資金)」という制度の認定を目指している。移住後、3年間地域おこし協力隊として活動し、その後は農業法人の従業員として雇ってもらい‘(「就農準備資金」を活用)、いよいよ、本当の意味で脱サラを目指すべく「経営開始資金」の認定をとりたいと行政や地元農家への相談、協議をしているところなのだが、なかなか困難を極めている。「経営開始資金」の認定がおりると、3年間は年間150万円の補償が受けられ、初年度だけ、倉庫や機械などの設備投資への補助が受けられる。少し前に制度が変わり、「新規就農者に1000万円」というような見出しでヤフトピにも掲載されてニュースになっていたのだが、実際に行政と話し合いをしてみると、1000万円の補助が簡単に受けられるということは全然なさそうだし、細かなルールがたくさんあり、ネットで情報が簡単に見つかるなんてこともなく、正直よくわからない。それでも、あるとないとでは大違いなので、しぶとく粘っているところだ。
痛感したのは、営農をするには、親の農業を継ぐとか、大農家から事業承継するといった形が整わなければ、本当に厳しい。新たに農地を確保し、かつ、慣行栽培ではなく環境にやさしい農業をしたい、となるとこのハードルが非常に高いのだった。
とはいえ、そんなことは人間の事情であって、果樹や植物には関係のないことなので、今はただ植物の目線で、日光(ひ)、風(ふ)、水(み)を体に感じながら畑に向き合うということを日々積み重ねることが一番大事。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?