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須田悦弘展が松濤美術館で開かれた意義

図録を先に買って、そのページをめくりながら見て回った展覧会があります。『練馬区立美術館コレクション+植物と歩く』(2023.7.2.-8.25.)です。

そのときの私のメモには、こう書かれていました。

当時のメモ
(左)図録のページ (右)20×21.5持ち運びやすいサイズの素敵な図録

「あんなところに!」と、作品を"発見"した喜びのせいか、《ベルリン》は印象深く、これまでに何度か思い出すことがありました。

松濤美術館『須田悦弘展』(2024.11.30. - 2025.2.2.)での《ベルリン》です。

(左)手前は《ベルリン》が水彩と鉛筆で描かれた作品。その右上に刺さる《ベルリン》
(右)練馬区立美術館の展示の時と、刺さり方が90度変わっていた

渋谷区立松濤美術館の建築は、「哲学の建築家」とも評される白井晟一(1905~1983)によるものです。閑静な住宅街に位置する石造りのユニークな外観、入口の先には楕円形の吹き抜けがあり、そこに架かるブリッジからは池と噴水を見下ろすことができます。地下2階から2階まで螺旋階段で繋がり、高い天井と湾曲した壁面をもつ展示室や、ベルベットの壁布が張られ、絨毯敷きにゆったりとしたソファが置かれた展示室など、他にはない空間が来館者を迎えます。

ここに須田の植物を配することでどのような作品となるのか。白井建築を舞台にした須田悦弘のインスタレーション作品としてもご期待ください。

松濤美術館公式サイトより(太字筆者)

須田さんの作品はたしかに美術館の至る所に配置されていました。

宝の地図

美術館を建てた白井晟一という人は、実は建築学科出身ではなく、図案科を卒業後、ドイツへ渡り哲学を修めた不思議な経歴の持ち主です。

"館内建築ツアー"というのがあったので参加してみると、いろいろなことがわかりました。(通常は実際に歩いて見て回るようなのですが、今回は作品が点在しているのと、会場内混雑により、急遽地下2階のホールにてスライドレクチャーとなりました。職員の方のお話がわかりやすく、とても勉強になりました)

たとえば、楕円形によってできた曲線の壁。これは展示には向いていないため、地下1階の展示室では通常、展示用にまっすぐな壁を作っているのだとか。

松濤美術館公式Xより
「「前衛」写真展の精神」展
たしかに壁ができている。気づかなかった。

今回その壁はなく、美術館自体の壁を見ることができます。これは大変珍しいことだそうです。

美しい曲線の壁
宝の地図の番号5、6、7の展示
奥から《スルメ》《チューリップ》《象》
そして写真の右下に小さく15の《雑草》

さらに、普段はその壁で窓も隠されてしまっているので、このように窓があらわになっているのも滅多にない、とのことでした。

吹き抜けだからB2,1F,2F,噴水,渡り廊下すべてみえる
宝の地図12の《チューリップ》
2階の反対側の窓からも《チューリップ》を発見

また、バルコニーも普段は開放されていない模様。
元々の設計では、このバルコニーは存在しておらず、屋外の渡り廊下から室内(現バルコニー)に入ると、二手に分かれる階段につながり、地下1階の展示室に降りられるようになっていたのだとか。

幻の階段の名残バルコニー
バルコニーでの撮影は安全性のため禁止

バルコニーからでしか、よく見えない地下1階の作品もありました。

(左の矢印)14《ミケリテ》2018
(右の矢印)18《雑草(プラチナ)》2007
(左)下から見上げた《ミケリテ》 見上げるの楽しい。バルコニーからだと真横から見られる
(右)《朴の木》という作品の上にプラチナがきらり
(右上)遠く離れてみるとぎりぎり見える。バルコニーからだと形がちゃんと分かる

さて、2階の展示室の手前、そこに撮影禁止となっている箇所(宝の地図19)がありました。作品が撮影禁止というよりも、おそらくその場所が撮影禁止だったのだと思います。

2階

2階の展示室は"サロンミューゼ"と呼ばれおり、ここでは2011年頃までお茶やケーキが楽しめたそうです。
そして19番は、厨房があった場所。

画力が無さすぎて覗き込んだ先までは描けず無念
右側は白いタイル 銀色のトレイが立てかけてあった
正面にはパンを入れておく業務用コンテナーのようなものが
暗くてコップに水が入っているように見えた

壁に食事を提供する穴(?)があって、そこを覗くと、厨房らしいステンレスの台の上に、コップに一輪の白い花と、一枚の花びら《サザンカ》が!
普段はここも封鎖されているようです。

やさしい

ここに須田の植物を配することでどのような作品となるのか

松濤美術館公式サイトより

私は、須田さんの作品は、"発見すること"でいちばん楽しめるように感じています。その体験を存分に味わいながら、今回は須田さんの作品を通して、松濤美術館についても"発見"できる、そんなすばらしい展覧会だったと思います。

植物を配することで美術館をまるごと作品にしてしまうーー須田さんの作品の魅力のひとつだと感じました。

ところで、私が須田さんの作品を認識したのは、練馬区立美術館が最初なのですが、その少し前に、山梨県立美術館で"発見"していました。

山梨県立美術館コレクションREMIX』(2023.4.22.-6.11)
の作品リストに、おそらく嬉しくてその場でメモしていたのを自分でも忘れていた
この展示を見る前に、ミレー館の展示会場で謎の草をよくわからないまま発見していた
《麦》と《蕎麦》だったらしい。今確認したらちゃんと作品リストに載っていた!

次はどこで須田さんの作品を"発見"できるか楽しみです。

宝の地図2番《クロユリ》
外壁は韓国から取り寄せた白井さんこだわりの石

以上です。

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