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五感で振り返る2024年展覧会
2024年に訪れた展覧会・個展は77件。
図らずもなんだか縁起が良さそうでうれしいです。
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10-12月は体調を崩してしまう日が多く、見逃してしまった美術展があり無念。
健康がいちばん大事。
2024年の展覧会を振り返るにあたり、BEST5等の順位づけをするのはむずかしかったため 、今回は五感を通じて印象に残った展示をピックアップしてみることにしました。
視覚:「石田尚志 絵と窓の間」展
石田尚志 絵と窓の間展
神奈川県立近代美術館 葉山(2024. 7.13. - 9.28.)
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なによりもまず、石田尚志さんご本人の公開制作を間近で拝見できたこと…!
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普段見ることの叶わない制作の様子を、ゆっくり、じっくり、"目撃"してしまっているような、不思議な時間を過ごしました。
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石田さんの作品は、時間を掛けて見ていたくなるものが多いと感じました。たとえば《庭の外》という作品は、映像はもちろんのこと、照明も変化していくので、影の様子も変わっていきます。照明が消えて真っ暗になったり。
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絵画や写真等の作品をじっとみていて、精神的に入り込めはしても、物理的には不可能であることがほとんどです。
《庭の外》は、それが少し可能な作品でした。
まず"外"から、立ってぼんやり見る。次に、座って目線を低くして見る。だんだん"庭の中"に入ってみたくなって、"中"を歩きながら見てみる。また"外"に出て眺めて見る。歩いて見る。じっと見ることで考えつくこと。ここが一体どんな庭で、歩いている私は誰なのか。
焦らず作品をじっくりゆっくり見続けると、なにか自分だけが感じること、というのが出てくる。その楽しさを知りました。
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破損したこけしちゃんが修復されて旧鎌倉館から葉山館へ梱包されて運ばれる様子を収めた映像をみていたので、実際に目にできて感慨深かった
聴覚:「カール・アンドレ 彫刻と詩、その間」展
カール・アンドレ 彫刻と詩、その間 展
DIC川村記念美術館(2024.3.9. - 6.30.)
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ちょうど歩いていた
日本の美術館において初めての個展となる本展は、同一の形と大きさに加工した木、金属、石を床に直接置き、規則的に広がるアンドレの典型的な彫刻作品を大きな空間で展開します。アンドレは自身の作品が、それが置かれる周りの空間に作用するものであることを「場としての彫刻」という言葉で表しています。
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手前に写っているのは、下の図の2の作品
この展示では、床に置かれた作品の上を歩くことができました。
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詩はそこに詩としてあることがすべてで、本来、無目的なもの。そしてすべての詩は未完で、読まれることによってようやく完成します。あなたの想像力と創造力を、ほんの少し加え、一編を書き終えてください。
平たく並ぶ四角形の金属の上を、どんな風に歩こうか。どこから歩き始めようか。満遍なく踏んでみたり、好きなところだけに足を置いてみたり。
もしカール・アンドレの彫刻が詩であるならば、私の足音はアンドレの詩を音読する声だったのではないかと思いました。
作品の上を歩く音を聞きながら、アンドレの作品を鑑賞し終えました。
触覚:「紙の光 光のしるし」展
紙の光 光のしるし 展
竹尾見本帖本店・DNPプラザ(2024.9.30. - 11.22.)
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5人の写真家の写真展です。作品は、写真家の方が自ら選ばれたファインペーパーに印刷されています。
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写真美術館でも見た野口里佳さんと山元彩香さんの作品をまた見られてうれしい
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ここでは、最終的に印刷に使用された紙が選ばれた理由を読みながら、候補に挙がった様々な紙に実際に触れ、指先で質感や光の反射具合などを確かめることができました。
作家の方のスケッチやメモ書きが展示されている美術展では、それらから創作過程を知ることができます。この展示では、実際の紙に触れることで、写真家の方々の感性を"追体験"し、「私ならどんな紙を選ぶだろう」と、自分も制作に加わっているような、鑑賞を超えた体験ができました。
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手前に様々な紙に印刷された写真が置いてある
(地下1階)
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1階のお店では紙を購入できる 今年はここで紙を買って何か作りたい
嗅覚:「デ・キリコ」展
デ・キリコ 展
東京都美術館(2024.4.27. - 8.29.)
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風変わりで色とりどりの玩具でいっぱいの、奇妙な巨大ミュージアムを生きるように、世界を生きる パリ手稿(1911-1914)より
《福音書的な生物Ⅰ》に配置されているのは、文房具、機械の部品、ビスケットや地図など、身近なものであるにも関わらず、その空間は謎めいています。
たとえばサラミも、キリコが描くとなにかとんでもなく特別で、非日常的な世界へのアイテムのように感じられます。
「奇妙な巨大ミュージアムを生きるように、世界を生きる」ためのキリコの嗅覚の鋭さを感じた展覧会でした。
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(右)《サラミのある静物》1919
会場もすばらしかったです。こんな美術館があったらうれしい。
🏛️#デ・キリコ展 の展示空間
— 【公式】デ・キリコ展 (@dechirico2024) June 26, 2024
エントランスを通ると
斜めの壁とオレンジの床が。
アーチ型の開口部が並ぶ壁は#デ・キリコ のイタリア広場のよう。
歪んだ遠近法で描かれた絵の中に
迷い込んだ感覚に・・・🤩💫#東京都美術館
© Giorgio de Chirico, by SIAE 2024 pic.twitter.com/efkv4qdyU9
味覚:「空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン」展 (2025年巡回あり)
空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン 展
東京ステーションギャラリー(2024.7.13. - 9.23.)
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展覧会は、フォロンの「空想旅行」に参加できるような構成になっていました。
旅のはじまりは、案内人であるフォロンの名刺の展示からです。
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「AGENCE DE VOYAGES IMAGINAIRES(空想旅行エイジェンシー)」と書かれたフォロンの名刺から始まる展示、すてきすぎだ。
今回は、フォロンのキャリア初期(1960年代)から晩年(2000年代初頭)までのおそよ300点近い作品が展示されていました。
作品数がとても多かったのですが、混乱することなく最初から最後まで「空想旅行」を楽しめたのは、展覧会の構成が質問に基づいていたからだったように思います。
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迷子になりそうになったら、今いる場所(章)の質問を思い出す。そうすると、空想の旅路にすっと戻ってこられる。安心して旅行を楽しめる工夫がなされている展示でした。
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"リトル・ハット・マン"と思われる謎の男のブロンズ像。
旅のはじまりでは閉じられていて、旅の終わりではちょっと開いている…!
(左)《人》1992
(右)《ひみつ》1999
最初から最後までフォロンたっぷりの展覧会に加え、木村和平さんの写真展「フォロンを追いかけて touching FOLON」が同時に開催されており、フォロンという人物の背景を感じられるすてきな展示になっていました。
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そして本も!
『フォロンを追いかけて Book1』では「フォロンを知る旅」として、初期のドローイング作品と、プルーストによる質問帖へのフォロンの回答がまとめられています。
『フォロンを追いかけて Book2』では「フォロンを感じる旅」として、フォロンがいた場所を撮影した木村和平さんの写真が並び、大崎清夏さんの詩で締め括られています。
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フォロンの空想の旅、フォロンを知る旅、フォロンを感じる旅。
フォロンをたっぷり味わうことができました。
フォロン展は今年、名古屋・大阪でも開催されるようです。
2025年1月11日(土)~3月23日(日) 名古屋市美術館
2025年4月5日(土)~6月22日(日) あべのハルカス美術館(大阪)
まとめ
気づけば1月ももう残り1週間ほど…!
ようやく振り返りができたので、私の2025年はゆるりと2月始まりのようです。
10月にひどい風邪を引いてから、少し美術館から足が遠のいてしまっていたのですが、2025年は無理のない範囲で、また色々な展覧会に行けたらいいなと思っています。
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風邪の間にアニメでワノ国編を一気見。
感動による鳥肌か発熱による寒気か混乱する。
そして毎年思うことですが、今年はもう少し短めの記事を、ぽんぽんと、ぽんぽんと書いていきたいです。
おまけ1(2024年展覧会初め)
2024年の展覧会初めは「いのちをうつす―菌類、植物、動物、人間」展でした。
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6人の作家さんが語るご自身の作品への言葉が大変興味深い展示でした。
たとえば、小林路子さん。
何十年も前はシュール(心象的)な絵を描いていました。そして、初心に戻って写実を追求したいと思った頃、本の仕事で偶然きのこに出会ったのです。都内で生まれ育ったので野生のきのこにはまったく無知。出会いは一目惚れでした。それから、都内でも山野でもひたすらきのこを探して描く楽しい人生が始まったのです。
「楽しい人生が始まった」…!そういう出会いが今年ありますように…。
世界にSIITAKEで通用する日本の代表的栽培きのこ。シイタケ神社まであるという。ぜひ、その野生の姿を描きたい、と思うと意外に山野で出会わない。(…)探す場所の問題なのか。もしや嫌われたのか。一度、シイタケ神社にお参りした方がいいだろうか。
おまけ2(2024年展覧会納め)
2024年の展覧会納めは「桑原弘明 Objet & Scope」展でした。
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巖谷國士さん曰く「空前絶後」の展覧会。
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澁澤龍彦の家の扉が箱に収められているなんて…!すてきだ
その年の最後に訪れる展覧会は何になるのか見当もつかないので、毎年楽しみです。
おまけ3(疲れを癒しに美術館へ)
人々の疲れを癒す、精神安定剤のようなあるいはゆったりとくつろげる、肘掛け椅子のような作品を作りたい
「マティス 自由なフォルム」展を訪れて1ヶ月ほど経ったある日、私は出先で疲労困憊してしまい、普段なら即座に帰宅するところ、「マティス展で疲れを癒したい」という気持ちが湧き起こり、国立新美術館へ向かいました。疲労を感じて美術館へ向かうーー初めての経験でした。
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みているだけでたのしい
マティスの色と形に囲まれて、「肘掛け椅子」に座っているような時間を過ごし、元気に帰宅しました!
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ポスターと連動する私の体
以上です。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。