京都駅発!関西大回り乗車最長距離への挑戦
「140円の切符で16時間越えの壮大な旅が楽しめる」
嘘のような話ですが、全国の数か所でこんな旅を楽しめます。
そのからくりは「大回り乗車」
東京や大阪などの指定されたエリア内の移動は、一定の条件を満たせばどんなルートを使っても、改札に入った駅と出た駅を結ぶ最も安い経路の運賃で乗車できるというもの。
条件は大きく4つ
・指定エリアの外には出られない
・同じ駅を二度通るルートは不可(一筆書きできるルートでないといけない)
・途中下車は不可
(沿線の観光地に立ち寄るなどはできない。駅ナカで食事などは可)
・有効期間は1日のみ
このルールさえ守れば、壮大な旅に出ることができます。
関西の指定されたエリアはこちら。
2023年7月、この「大回り乗車」のルールを活用し、190円の切符で約9時間、325キロに及ぶ旅に出ました。
こちらがその時のルート。京都駅からわずか5分の山科駅を目指す大移動でしたが、まだまだ周れていない場所がある。出発駅と降車駅を指定することで、最長の大回りコースを検索してくれる神サイトがあったので、そちらを使ってみると…。
出ました!京都駅→西大路駅の大回りルート。隣の駅なので距離わずか2.5キロ、2分で着くんですが、このルートをたどると総延長は566.8キロ!
これは東京駅→新大阪駅を上回る距離なんです。このルートを地図に当てはめると…。
しっかり一筆書きになっています。これが京都駅発の最長不倒。鉄道と旅行をこよなく愛する者としてこれは挑戦しなくては…。
意を決し、2025年1月14日(火)寒空の京都駅から旅はスタートしました。
・1本目 京都5:51→近江今津6:49
旅のはじまりは琵琶湖沿いを走行する湖西線から。昼間に乗ると雄大な琵琶湖が見られるんですが、さすがに日の出前で景色は真っ暗…。
と思っていましたが、近江高島駅のあたりできれいな朝焼けを見ることが出来ました!長旅の始まりにぴったりの素晴らしい景色でした。
近江今津駅にはホーム上に雪が残っていました。ここから更に北へと進路を取ります。
・2本目 近江今津7:05→米原8:14
大阪近郊区間の端は近江塩津駅。ここで湖西線と北陸本線が合流するので、本来であれば乗り換えが必要なんですが、折り返して米原駅に向かってくれるという何とも便利なこの列車。車内は通学の高校生で賑わっていました。
ここでしっかりと睡眠を取りましたが、余呉駅周辺の一面の雪景色には思わず起きて写真に収めました。
・3本目 米原8:18→草津8:51
さて、ここで乗り込むのは関西民にはおなじみの新快速。ここまでは各駅停車だったので、駅を通過していくスピード感は気持ち良いものです。
利用客も多く、各駅ごとに結構な乗車がありました。
草津駅に着いたところで、駅ナカのコンビニで朝ご飯と昼ご飯を調達。朝のコーヒーもいただきます。駅の外から一歩も出られないこの旅において、駅ナカのコンビニはとてつもなく大きな存在です。
・4本目 草津9:47→柘植10:30
滋賀のベッドタウン草津から南東に線路を伸ばす草津線。着いた先の柘植駅は三重県伊賀市!大阪近郊区間東の果てです。
草津線内は住宅街あり、工業地帯あり、自然豊かな地域ありと車窓の変化が目まぐるしく、乗っているだけで楽しい路線でした。
終点の柘植駅がある伊賀市は忍者のまちとしても知られ、駅のいたるところに忍者の姿が見られます。
・5本目 柘植10:42→加茂11:34
ここから乗り込む関西本線は日中1時間に1本の運転です。ここの乗り継ぎでゴールの時間が大きく変わる、大回り乗車難所の一つです。
やってきたのは1両編成のディーゼルカー。三重県と京都府の境に広がる大自然の中を小さな車両が颯爽と駆け抜けていきます。
この区間が廃止になってしまえば、大回り乗車の最長もかなり小さくなります。いつまでも走り続けられるように。そんな想いも胸に秘めながら、列車は約50分で終点の加茂駅へ。
・6本目 加茂11:43→木津11:49
この電車は一本で大阪の中心地まで行けるとっても便利な列車ですが、今日の目的は大回り。お隣の加茂駅までわずか6分でお別れです。
・7本目 木津11:59→放出13:01
木津から放出までは先ほど乗っていた大和路快速で久宝寺に向かい、そこからおおさか東線に乗り換えるのが最短ルートですが、ここで乗り込むのは学研都市線。カッコいい名前が着いていますが、沿線の風景はとってものどか。出発前におにぎりで腹ごしらえをして、いざ乗車。
北陸新幹線やリニア新幹線の新駅構想もある松井山手などを過ぎ、列車は難読駅名でおなじみ放出(はなてん)へ。
・8本目 放出13:13→久宝寺13:28
ここからはおおさか東線。その名の通り、東大阪エリアの南北を結びます。2008年3月開業の新しい路線で、途中には「JR河内永和」「JR俊徳道」「JR長瀬」とJRが着いた駅が3連続で続く区間も。
一部路線は貨物線を旅客線に転用した歴史があり、今でも貨物列車がこの区間を走行しています。
・9本目 久宝寺13:36→奈良14:03
先ほど一駅で降りてしまった大和路快速の今度は逆方向に乗り込みます。
途中には法隆寺駅もあり、奈良駅へ出て京都方面の快速電車に乗るんだろうなと思われる外国人観光客の姿も見られました。
・10本目 奈良14:24→高田15:08
さて、ここからがこの旅一番の山場です。
奈良から高田を経て和歌山に向かうこの区間は、1時間に1本ほどしか列車がなく、全て各駅停車。そして、全車両ベンチシート型の車両で、乗り継ぎの駅にも駅ナカ施設はほぼゼロという区間。
奈良→和歌山 105.4キロに及ぶ長い戦いの始まりです。
まずは万葉まほろば線で高田まで。運転士のみのワンマン運転で2両編成の列車がゆっくり進みます。
・11本目 高田15:26→五条16:01
高田では18分の待ち合わせ。車両は変わりませんが、ここからは和歌山線と名前が変わります。途中の吉野口駅は近鉄とJRが同じ駅を共同で使用していて、隣のホームから近鉄電車が出発する光景を見ることが出来ます。
・12本目 五条16:40→和歌山18:14
五条駅では30分を超える待ち合わせ。待合室もなくかなり寒い中でしたが、反対方面の列車が20分ほど停車していましたので、出発まで車内で過ごすことに。五条駅は高校野球の名門智辯学園中・高の最寄り駅でもあり、車内は半分以上が学生でした。
一時間に一本しか電車が無いので、出発まで皆楽しそうにお喋りしているし、電車の時間ももちろん頭の中に入っている。僕は名古屋出身で生まれた頃から15分に一本でも本数少ないな~と思って育った中で、彼らとはまた違った時間の中で過ごしていたのかななんて物思いにふける。
出発前、鉄路を照らす夕日がきれいで、思わず写真に収めました。
出発すると1時間半にせまる長い道のり。ベンチシート型の座席で中々眠りにもつけない。17時半を過ぎ、お尻に痛みが…。
京都を出発して約11時間。いよいよ身体が悲鳴を上げ始めました。
ちなみに、和歌山線を降りると改札が設けられていますが、大回り乗車の切符は通すことが出来ません。ただ、備え付けのインターホンで駅員さんに大回り乗車をしている旨を伝えると、通行が可能になります。
・13本目 和歌山18:28→大阪19:58
長く続いたローカル線乗り継ぎが終わり、この列車で一気に大阪駅まで向かいます。ここで、お尻の痛みと身体全体の疲れがピークに。この一時間半がこの旅で一番しんどい時間帯でした。
しかし!そのしんどさを癒してくれたのがボックスシートの向かいに座っていたおじさま二人。
A「最近私『塩けんぴ』にハマってましてね?」
B「ほぉ。塩けんぴって何ですの?」
A「あまじょっぱい芋けんぴなんですけどね。カルディってあるでしょ。」
B「あぁ、お菓子のね。」
A「お菓子もそうですけど、雑貨とかコーヒーとかも扱ってる」
B「カルディってそんなこともしてますの?お菓子は有名だけどもね。
♪カルディ~のポテトチップスなんてね」
おじさん、それはカルビーですわ…。
他にも「安物のスマホだからラインが二日ほど遅れて届く」「スマホの機種の名前はアンドロイドやったかな?」と思わずツッコミたくなるトークに癒されました。これが「立ち話が漫才になる」ってやつやなと。おじさんたち、ありがとう。
・14本目 大阪20:07→尼崎20:12
和歌山からのロングランを終え、東海道線を一駅だけ乗車。
時間的にも帰宅ラッシュと重なり車内はかなり混雑していました。お尻が痛すぎてもう座れないので、立って移動します。
尼崎駅到着直前。「遮断棒が折れているとの連絡があり、確認を行っていたため神戸線・東西線に遅れが出ています」とのアナウンス。
ん?今から乗り込むのは東西線だぞ…。嫌な予感がよぎります。
・15本目 尼崎20:09→鴫野20:34(約15分遅れ)
東西線ホームに降りると、到着しているはずの普通列車がまだ来ていません。結局普通列車は約15分遅れで到着。行先も松井山手から四条畷に変更されていました。
大回り乗車の一番のリスクはダイヤ乱れで、それによって目的地に到達できなかったり、ルート変更で一筆書きルートではなくなった場合は、所定の運賃を追加で支払う必要があります。
今回はわずかな遅れですが、少しひやっとしました。
・16本目 鴫野20:51→新大阪21:05
鴫野からは本日2回目のおおさか東線。2019年に放出~新大阪間が開通、更に2023年には大阪駅まで乗り入れるようになったことで、大回り乗車のルートの選択肢も増えました。もう座っていられないので、前面展望を楽しみます(笑)
・遅めの晩ごはん
新大阪駅に到着。ここで遅めの晩ごはんを。せっかくなので、駅ナカでおなじみ立ち食いそばを。京都駅にもある「麺家」さんですが、ここの鶏天うどんは鶏天が三つも入ったとってもボリューミーな一杯。冷えた身体にうどんの温かさが染みわたります。
・17本目 新大阪21:28→西大路22:03
さぁ、いよいよラスト17本目!やってきたのは223系の快速米原行き。
新快速として現役バリバリで走っている車両でもあり、種別は快速ですが、颯爽と駆け抜けます。
そして22:03。歓喜の瞬間です!16時間566.8キロに及んだ長旅は無事ゴールを迎えました!
・感想!
西大路駅に降り立った時は、達成感よりも安心感が勝りました。
物心ついたころから鉄道ファンで、色んな鉄道旅を経験してきましたが、人生で初めて「もう電車には乗りたくない!」と思いました(笑)
それだけ過酷な16時間でした。
その他、これを読んで「私も大回り乗車したい!」と思ったツワモノなあなたに向けては
・通勤路線からローカル線まで、車窓や沿線の雰囲気の移り変わりを見ているだけで楽しかった
・食料は確保できる時に確実に確保しておくべし
・ベンチシート型の車両で寝るのはツライ
クロスシートの車両で睡眠を取っておくのがオススメ
・加茂→柘植間の車窓は特に圧巻
・本や映画など暇つぶし対策をしておくべし
・最近の車両にはほぼ100%お手洗いがついているので、トイレの心配はほぼなし
・和歌山や奈良の駅には駅ナカ施設がほぼないので、買い出しなどは京都や大阪などの主要駅で済ませておくこと
・待合室がない駅も多いので、防寒や暑さ対策・虫よけ対策もしっかりしておくこと
といったところでしょうか。そして、今回は大丈夫でしたが、人身事故等が発生した場合、基本的には振替輸送などが受けられない他、ルートを変更した際に一筆書きルールを守れないと追加運賃を払うことになるので、時間には余裕を持って行程を組んでおくようにしましょう!
また、乗務員や駅員に大回り乗車をしている旨を説明する際や、緊急時の迂回ルートを決める際に役立つので、大回り区間の路線図を印刷して持っておくと良いでしょう。
究極の乗り鉄旅といえる大回り乗車。
人生で一度は味わってみてはいかがでしょうか?