読書メモ、表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬

kindle unlimitedに出ていたので、読ませてもらいました。
ちょっとしたメモを書いておきます。

学生時代から、芸人として売れる前後まで、「日本社会の構造」と「そのなかにいる自分」に悩んだひとりの男の物語。

本書では、新自由主義や競争社会というふうに表現されているけど、システムと言い換えてもいいかもしれない。経済合理性というシステムの中では、個人の振る舞いは、それに適応した形になる。
損したくないとか、これをしておけば、将来の役にたつといった、価値観は、未来のために現在を道具化する。他者だってシステムの中の消耗部品である。幻想の承認のために、小競り合い、マウンティングする。

この構造で生きてきた中で感じていた違和感やモヤモヤを縷々語ったあと、キューバやモンゴルでの経験を経て、求めていたのは「競争ではない血の通った人間同士の関係だった」と結ぶ。

特に、印象的だったのは、家庭教師についてもらって、学ぶことの意義に気づいたときの言葉。「先生、知ることは動揺を鎮めるね!」。
たぶん学ぶことは、お金を儲けることとか、誰かに勝つとかだけではないのだ。自分を取り囲む「世界」と「自己」の関係を知ったり、結び直すことが、学ぶことの意義なんだろう。

日常のシステムの外に出て、想像力のレンジを広げること。
旅に目的があるとしたら、それだけだろう。
他者から自分に向けられる湿っぽい視線という捉え方から、自分から他者へ視線が移って、最後は少し爽やかでカラッとした見方で世界を見る。
そして、部品から人間に戻るのだ。少し血と色が流れ出している。
著者が、表参道のセレブ犬から、カバーニャ要塞の野良犬として、生きる決意のようなものが感じられた本だった。

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