詩|玉響の花
風任せ揺れるだけの身を知りつつも
秋の光を抱く
誰がため色をまといし此花よ
見ぬうちに散る君のほほ笑み
道端にひとり咲きたる薄紅の
影が夜風に溶けて消えゆく
ついばむ鳥さえ見向かぬ色に咲き
誰にも見られぬ秋の花
忘れられ咲き散りゆくもまた美し
ただ風まかせコスモスの舞
たそがれにそっと佇むその姿
誰を待つやら影のひとひら
人知れず咲き人知れず散る花は
秋のひかりに夢を隠せり
ひとり咲きひとり散りゆく徒花の
呼ばぬ名を風だけが知る
ひとときの美を知られぬ徒花よ
夜の静けさ月が泣きぬる
足もとにそっと広がるコスモスの
声なき叫び誰も気づかず
名も知らぬ花を拾えばその冷たさ
秋の終わりが袖にしみこむ
消えゆくと知りつつ咲くも徒花の
最後の夜に星がささやく
土の上薄紅の影残しつつ
風に散りける誰も知らぬまま
振り向けばコスモスひとり泣いている
夜の片隅誰に語るや
もろく咲きもろく散りゆく徒花に
何を見たやら秋の片影
小径にてひとつひそやかに咲く花の
名さえ知らぬまま秋は過ぎゆく
踏まれてもまだそこに咲くコスモスよ
誰かの記憶呼び覚ます影
小さき声で命を語る徒花の
ささやきは秋風に消えて
行き過ぎぬ人の影ただ見送る
咲くことだけが命と知り
月明かり淡くそそげる夜に咲く
コスモスひとつ夢のかけらよ
足元に一途に咲いた徒花の
色褪せぬまま夜に溶けゆく
人知れぬ命の灯よと風に問う
徒花の影月が黙して
刹那咲き刹那に散りて名も残さず
秋の片影あの夜の夢