見出し画像

甘露のたわみ|詩


太陽の熱を閉じ込めた翡翠色のたわみ
その内側で、太陽と月が秘めやかに絡み
滲む甘露が記憶の深部を揺らしていく


果実のような
あるいは柔らかい毒のような香り
その香りはかすかに開かれた唇の裏側に
夢の欠片を含ませる
まどろみの中で囁く見知らぬ誰かの声がする


触れればただとろけてしまう
蒼白い光が封じ込めた時間の粒
指先でそっと押し当てれば微かな震えが
掌を滑る
腕は這い上がる
魂の奥底に消える
そこで芽吹いたものが甘美な誘惑
遠くでプルプルと
掌の鈴の音のように震える


虜になるのは残り香のごとき記憶の断片
色を纏わぬ愛
名を持たぬ慕情が
暗がりに揺れる白い煙草の火のように
消えそうで消えないその残像
ひそやかに心の内を塗り替えていく


そしてまた
翡翠の果実は冷んやりと黙る
時の波に漂いながら
甘さだけを残して
見えないまなざしの向こうに


photo by 円音

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?