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藤井さんの書いた『アフターデジタル2 UXと自由』を読んでみた。

待望の『アフターデジタル2』が出た!ので早速読んでみた。

全てのマーケター必読の書。

結論から言うと、全てのマーケターが読むべき本だ。もちろん今デジタルに関わっているいないというのはあるだろうが、まさにこの本のテーマでもある通り、オンラインはオフラインを包含する(Online-Merges-with-Offline、その頭文字をとってOMOと呼ぶ)のだ。新型コロナウイルスの影響で、それは結果的にさらに加速している。なので、今デジタルに関わっていないマーケターでもいずれそこに関わるのは必定だ。まして今デジタルに関わっているのであれば尚更だ。

実は著者の藤井さんには私が日本代表を務める会社のOMO関連イベント(まだその頃はリアルの「セミナー」を行えたし、OMOという言葉も一般的ではなかった)にご登壇いただいたことがある。うちの会社が中国にもオフィスがあり、中国への出張時に自分自身が体験したことからの気付きが、藤井さんの前作『アフターデジタル』にわかりやすく言語化されていたことから僕が勝手に共鳴し、こちらから熱烈にアプローチして実現させたものだ。まだ藤井さんがここまで有名になられる前のことだ。

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この本に頻出のキーワードとして、「融通無碍」という言葉がある。「華厳経」という仏教の経典が由来とされている言葉だ。元々は「一見すると個々として成り立つ物事が、実は互いに関係があり、作用しあっているという考え」を表す言葉だ。

この「融通無碍」という言葉をOMOの説明に使う藤井さんはセンスがある。「実は互いに関係があり、作用しあっている」というのはまさにOMOだからだ。ユーザーが実店舗で買い物をするか、アプリを使うか、ウェブを使うかというのは、それはその時にたまたまそれを選択する動機があってそうしたということであり、それがまた別の日にはアプリになることもウェブになることも実店舗になることもある。でも組織がしっかりとOMO型になっている場合は、そのぞれぞれの接触チャネルでのアクションが別のチャネルにも作用し、一体としてユーザーの体験(UX)をアップグレードする。

僕はユーザーの意識や行動に合わせて自由に変容するという意味で「水」という表現を使うことがあるが、「融通無碍」の方が奥深いし、言い得て妙だ。 

日本人は定義するのが苦手?

僕が読みながら、そして直接本に書き込んだ言葉。

日本人は定義するのが苦手なんじゃないか。もしかして。

常に「曖昧性」を持たせておく社会。日本企業においては、仕事の内容を定義したジョブディスクリプション(職務記述書)も一般的な考えではない。今回の新型コロナウイルスへの対応もそうだ。あくまで国民の自主性に任せる。積極的に外出することはお勧めしないが、外出してはダメなわけではない。藤井さんはWeChatもAlibabaもミッションを決めて、それがサービスを定義して発展していった(第3章)とか、スターバックスの「価値の再定義」の話(第2章)を書いていて、それは本当にその通りなんだけど、翻って日本を見た時に、明確に定義するのが苦手ゆえ、変革にドライブがかからない。

なぜ定義せずに曖昧性を持たせるのか。一つには文化の問題があるだろう。定義できるリーダーシップの存在を組織的に無力化する文化が日本にはある。エリン・メイヤーの『異文化理解力』にも詳しいが、日本の文化は対立を避ける傾向がある。そして決定のプロセスも凛儀というシステムが表す通り、組織の各レイヤー全員で決定することが多い。強烈なリーダーシップで決定してそれに向かって進むということを良しとしない。そして決定のプロセスで多くのメンバーが関わるために、全員の要望を入れ込み、最終的に決まったものも「丸く」なりがちだ。なのでそこに曖昧性が生まれてしまうのだ。

そしてもう一つは、定義する動機が社会に存在しないからだ。中国でOMOの下地となったモバイルペイメントの浸透には、偽札の流通という問題がある。支払われた、もしくは支払ったお札が偽札だったら、受け取るお店も支払う消費者も困る。そこにWeChatやAliPayが担保するモバイルペイメントが拡がる余地があった。

日本にはある意味、イシューがない(なかった)。

翻って日本には、そういうイシューがない。だからモバイルペイメントの普及も遅々と進まなかった。

進まなかったと過去形にして書いたのは、この新型コロナウイルスがイシューとなり、それが社会的動機となり生活者の意識変容を生み、モバイルペイメントの社会的浸透を現在進行形でバックアップしているからだ。

僕はOMO推しだし、タクシーで現金しか使えないとイラッとする質だけど、ある意味、現金が安心して使える社会って素晴らしいと言える。

僕が2017年に語った内容をまとめてくれた記事に、バイクシェアリングのサービサーが競合の自転車に千枚通しで穴を開けてオペレーションできなくしたという話がある。それ自体は本当に許しがたい行為なんだけれども、それがきっかけとなってMobikeはエアレスタイヤを導入した。下はタイヤを横から見て現地で撮った写真。穴が開いているのが分かるだろうか(iPhoneが割れてるのは見逃してください笑)。全体がゴムでできているのだが、この穴で弾性を保ち、空気を入れる必要性をなくしたタイヤだ。イシューが課題解決力を生み、イノベーションにつながっていくいい例だ。日本ではこういったイシューが顕在化しないのだ。

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そのイシューの話がまさにp.45で説明されている。日本はホワイトリスト方式でやっていいことを決め、中国はブラックリスト方式(本のまま)でやってはいけないことを決める、と。その通りで、日本は一部のやっていいこと以外はやってはいけないことだらけで、それはある意味イシューが発生することを未然に防いでいるとも言えるが、その代わり不自由だ。一方中国はやってはいけないことは一部で、それ以外はなんでもOK。なので交通渋滞でタクシーが全然来ないし捕まらない→それなら自転車を乗り捨てて使いまわせるようにしたら良かろう、と新しいサービスが生まれる。日本は駅前に自転車を止めたら歩行者の邪魔になるからいけませんと、様々なレギュレーションや社会規範が新しいアイデアの実現を事前にブロックするか、発想者自身が自重してしまう。

でも、先に書いたように、今はチャンスだ。

今まで決まってたことも再定義できる(もちろん決まってなかったことも定義できる)。なぜなら再定義しないと僕たち自身が本当に死んでしまうかもしれないからだ。

今こそ「世界観」を定義しよう。

スティーブ・ジョブズはこう言っている。「イノベーションとは、変化を脅威ではなく機会と捉える能力のことだ」と。僕たちもこの機会に、藤井さんが第4章で繰り返し書いているように、「世界観」を明確に定義したい。

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世界観の話は、実は新しい話ではない。ラルフ・ローレンは1986年の時点で次のように語っている。

「このストアには、私の最初のネクタイ以来、私が語ってきたすべてのエッセンスが込められています。これを単なるストアにしたくないのです。私は単に服を売っているわけではありません。私が売っているのは世界であり、スタイルの概念なのです。私は人生の哲学を提案しています」

もしかしたら、そのラルフ・ローレンが(コロナ前だけど)増収増益傾向にあったのはこういった考えが土壌にあったかもしれないと、この本と以下の記事が自分の中で結びついた。

丸亀製麺の世界観

世界観の構築と表現という意味では、日本では丸亀製麺(株式会社トリドール)が徹底してそれを実現していると思う。丸亀製麺は、多くの方がご存知の通り、全ての店舗でその店舗で消費するうどんを製麺している。それが出店計画においてハードルになる面ももちろんあるだろうけど、うどんの本場香川の出来立てのうどんを食べた時の「感動体験」を伝えたいという世界観からはそれは許容できないものだ。でもその世界観に拘っているからこそ、ファンが生まれ、支持され、うどん業界No.1になれたのだろう。

実は、冒頭に触れた藤井さんにご登壇いただいたOMOのイベントに、トリドールのマーケティングディレクター神谷さんにもご登壇いただいていた。そのセミナーは『アフターデジタル』をベースにしたもので、本の中でも世界観については特にフィーチャーされていなかったように思うが、今振り返ってみると、この組み合わせとその後の展開は偶然の一致ではないように思う。

さらにトリドールでは7月より「デジタルマーケティング課」を意思を持って廃止し、部門全体でマーケティング=経営と捉え推進されることになった。そして神谷さんはその部(CX推進部)の責任者となった。まさに『アフターデジタル2』のコンセプトを地で行く形だ。個人的に、うどんをしっかり食べて応援したい。

DXとUX

最後に、最終章に書かれたこの一文を紹介して終わりにしたい。

DXとはシステムやオペレーションをデジタル化して効率化、コスト削減を行うこと主目的なのではなく、ユーザー・顧客との新しい関係の構築と、それに伴う新しいUXの提供が主目的である

新型コロナウイルスの影響で、あらゆるビジネスがなんらかの影響を受けている。ユーザーの意識と行動が変容しているからだ。この新しい時代において、企業はユーザーとどう向き合っていけばいいのか。この一文にこそ、この時代に対応するためのヒントがある。

まだ前作『アフターデジタル』を読んでない人はぜひこちらも。




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