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大本営参謀の情報戦記。本質を捉え、兆候から何を意味するかを判断せよ
大本営参謀の情報戦記 - 情報なき国家の悲劇 という本をご紹介します。
本書の骨格をなす「2つの教え」
この本からは、著者である堀栄三の情報参謀としての考え方や振る舞いは、現在のビジネスにおいても示唆が多く得られます。
本書の最初のほうに、堀栄三が情報参謀になるにあたって、ある2人から教えを受けたエピソードが出てきます。
2つの教えは、本書に書かれていることの骨格をなします。情報参謀としてだけではなく著者の人生に大きく影響したものでした。
2つの教え
・本質: 情報の本質を捉えよ。表面や形などの枝葉にとらわれないで、奥にある本質を見よ
・兆候の意味合い: 出来事の「兆し」や「兆候」、相手の「仕草」を逃すな。それらを総合的に見て何を意味するのかを判断せよ
[教え 1] 本質を見よ
1つ目の「本質を捉えることの重要性」は、父に会うことを勧められた土肥原中将 (後に大将に進級) からの教えでした。本書からの引用です。
「枝葉末節にとらわれないで、本質を見ることだ。文字や形の奥の方には本当の哲理のようなものがある、表層の文字や形を覚えないで、その奥にある深層の本質を見ることだ。
世の中には似たようなものがあるが、みんなどこかが違うのだ。形だけを見ていると、これがみんな同じに見えてしまう。それだけ覚えていたら大丈夫、ものを考える力ができる」
土肥原将軍の戦術講義は実に平易な話であったが、嚙めば嚙むほど味の出る奥深いものがあって、堀には一生忘れられない言葉であった。
(引用: 大本営参謀の情報戦記 - 情報なき国家の悲劇)
[教え 2] 兆候から何を意味するかを判断せよ
2つ目の「兆しや兆候を逃さず、情報の意味を判断せよ」は、堀の父親からの教えでした。同じく本書からの引用です。
「情報は結局相手が何を考えているかを探る仕事だ。だが、そう簡単にお前たちの前に心の中を見せてはくれない。しかし心は見せないが、仕草は見せる。
その仕草にも本物と偽物とがある。それらを十分に集めたり、点検したりして、これが相手の意中だと判断を下す。
(中略)
いろいろ各場面で現われる仕草を集めて、それを通して判断する以外にはないようだな」
父は何度も「仕草」という言葉を使った。仕草とは軍隊用語でいう徴候のことである。情報のことは知らないという父から受けた初めての情報教育であった。
(引用: 大本営参謀の情報戦記 - 情報なき国家の悲劇)
ここまでの2つの教えである「本質を捉える」「兆しから総合的に判断する」は、読者がこの本から何を学ぶかにそのまま当てはまります。
読み手の文脈で何を学ぶか
本の読み手が何を学ぶかは、堀の書いたことから読み手が自分自身の文脈で「これは自分にとって何を意味するのか」をいかに見出すかです。
つまり、本書を読む醍醐味は次のような楽しみ方です。
読み手は書かれていることから「書かれていることの本質は何か」「文章や行間から何を読み、自分にとって何を意味するのか」という視点で、学びや示唆を得る読書体験です。堀が、戦時中の大本営情報参謀や戦後の自衛隊での任務を通して常に「本質は何か」「目の前の兆しから何を読むか」を実践したようにです。
戦略の観点で思ったこと (2つ)
ここからは、本書からの戦略の視点で思ったことを2つご紹介します。
戦略で思ったこと
・競争原理を根本から変える
・制空権の獲得を「プラットフォーム構築」の文脈で読む
以下、それぞれについてご説明します。
[思ったこと 1] 競争原理を根本から変える
あらためて考えさせられたのは日米が太平洋戦争で争った「制空権」でした。正確に言えば、アメリカには見えていて日本の軍部中枢には欠けていたものが、制空権を取るか取られるかでした。
アメリカ軍は、太平洋の小島を地上だけではなく島の周囲や上空までを含めた制空権をどう獲得するかで戦略を立てました。一方の日本側には、その視点はありませんでした。
この本質は、戦場で戦うにあたって、勝利のために必要なものを従来からの延長で考えるのではなく、根本的に発想を変えます。
現代に当てはめれば、例えば以下のような発想の転換です。
発想の転換
・端末側の性能やデータ保存容量をいかに強化するかという競争から、クラウドサーバーやクラウドコンピューティングの導入によって端末側ではなくクラウド側の競争になった
・自社で全ての技術を開発したり持っておくのではなく、必要に応じて社外ですでにある開発済みの技術を持つプレイヤーと連携する。いかに Right player を思いつくか、探せるか、行き着くかの争い
・プロダクトをローンチ (提供開始) するにあたって、完璧なものを時間をかけて作ってからではなく、ベータ版で利用者の使い方やフィードバックを得て、失敗に学びながら市場性や完成度を高めていくスピードの争い
現代風に言えば、マーケットで勝つため (例: ターゲット顧客の支持を得るため) の成功要因をゼロベースで見直し、全く新しい競争原理 (ゲームのルール) を持ち込んだのです。
[思ったこと 2] 制空権の獲得を「プラットフォーム構築」の文脈で読む
制空権の獲得は別の見方もできます。今まで取れなかった情報の収集です。
米軍は上空を支配できたので、偵察機から敵国である日本軍の状況を知ることができました。逆に言えば、日本軍は制空権を失ったために、航空機による情報が不正確で、時には誇張されました。
制空権と情報収集を、マーケティングのデータ収集の文脈で解釈すると何を意味するかを考えてみましょう。
これまでは技術的に困難だった顧客や消費者のデータの収集です。例えば、消費者は店内や商品棚の前でどのような行動をするのか、その時に頭の中でどのようなことを感じているのか、思っているのかです。
今後は、買いもの行動を VR (仮想現実) を使って、よりリアルに捉えられる調査が一般的になると考えられます。その際の頭の中は脳波や生体反応を測定するようなニューロマーケティングが使われるでしょう。
あるいは、Amazon Echo や Google Home のようなスマートホームデバイス、ウェアラブルデバイスが普及すれば、これらの IoT でしか取れないデータを活用することです。
制空権の獲得とは、それまでにはなかった新しい「プラットフォームの構築」と見ることができます。現代に当てはめれば、IoT というプラットフォームをどう作り出し、そこからどのように情報を得るか、情報をいかに活用するかです。