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蘖(=ひこばえ)という言葉がある。
樹木の切り株や根元から生えてくる 眠っていた芽(=休眠芽)が起き出したもの。この蘖が成長し、また新たな木へと育つことから、樹木が自ら蘇生するチカラや森が再生する生命力の象徴としても使われたりするのだそう。

生きていると今までの自分自身から新しい自分自身へと生まれ変わるような脱皮をするタイミングが何度もある。そのタイミングでは今まで握りしめていたものを手放さなければならなかったり、繋がっていたものを断たなければならないような決断や覚悟が問われたり、それを次元(=フェーズ)が変わるというような言い方をしたり、パラレルシフトのようなもの。でもそれは、今までの自分をまったく0にするというようなことではなく、より自然に、より純粋に還ってゆくために今はもう必要のなくなったものを削ぎ落とす作業なのかもしれない。削ぎ落とすと言うと残酷に聞こえるかもしれないけれど、成長してゆく木と一緒でそれは剪定のようなもの。然るべきタイミングで剪定がおこなわれる。


剪定というよりも選定だ。自らのかたちを調えて、風通しをよくするために。ここでは統一して「せんてい」と言うけれども、こうした「せんてい」がおこなわれるタイミングでは「空虚」を感じやすかったりもする。「今までにあったものがなくなる」と言えば「虚しさ」みたいなのは感じるのかもしれない。

語弊がないように言うと、「今までにあったものがなくなる」というのは「なかったことになる」ということではなくて、個人的には昇華されるという感覚。昇華という言葉の意味では空へと還るというイメージに通じる。


冒頭の蘖(=ひこばえ)という言葉に一度戻ると、今まであったものがなくなるとは言えど、自分自身の大事な根の部分であったり、深い深いところは変わらない。先日、秋分点の日にオラクルカードリーディングをしたら「THE VOID」というカードが出た。「THE VOID」はすべてが存在していると同時に、何も存在していない宇宙空間のこと。空虚は、新たな主体性が生まれる創造性と可能性の源泉。「何も置いていない空間」があることで、そこには自分でも予想だにしなかったようなものが舞い込んできたり、芽生えたりする。


なんでこんな話をここまでしたかと言うと、まさに今自分自身がこの「蘖状態」だから。「最近、翼さんはどんな感じですか?」と誰かに聞かれたら間違いなくこう答えるだろう。「最近は、蘖状態です」と。そしたらきっと9割以上の確率で目が点になるか、そっと何も言わず後ずさりするか。残りの1割の人たちは「え!なんですかそれ!」って興味を持ってくれると思う。でもきっとこの記事をここまで読んでいる時点で読んでくれているあなたは残りの1割だ。残りじゃない。奇跡の1割だ。

4月の初個展から5月に引っ越し準備、6月に奈良に移住する流れになってから一ヶ月後の7月に予期しなかった神奈川への帰省。自分自身の価値観がどんでん返しされてゆく中で、この数ヶ月間も水面下で色々と動いていたことはあったのだけれども、この数週間は全くもってこの「蘖状態」誰かとつながるということよりも、自分自身とつながること、より内観してゆくことばかりを促される。

それでもってなぜかここにきて今まで勧められても見向きもしなかった、瞑想とヨガを毎日朝昼晩と2ヵ月以上継続して行っている。やっぱりタイミング。どれだけ「これのこれがいいです!これやったほうがいいよ!絶対いい!」と勧められたとしても、自分自身がそれを望んでいなければ、決して行動にはあらわれない。裏を返せば、本当に心から望んでいることであれば自然と行動にあらわれる。数年前に瞑想を勧められたり、ヨガをしたこともあったけれどもその時は続かなかった。今は誰に勧められるわけでもなく、褒められるわけでもなく、勝手に習慣化している。

そして、オーダーで御依頼頂いている絵の制作活動や個別でのアートセッション以外の時間はもっぱらほとんど、自然に触れている時間が多かったりするのだけれども、最近、読んだ澤口たまみさんという方が宮沢賢治の57のことばをやさしく丁寧に紐解いた「自然をこんなふうに見てごらん」の一節にこんな素敵な言葉があったのでここで紹介させて欲しい。

わたしたちは自然を見るとき、
知らず知らずに自身の気持ちを重ねています。
こんな空を、前に見たのはいつで、
一緒に見たのは誰だったのだろう。
こころを動かされたら、その気持ちを
自分の言葉にしてみませんか。
自然に向き合う日々は、
自身と向き合う時間をもたらすのかもしれません。

自然をこんなふうに見てごらん 宮沢賢治のことば

この記事もこの本と出逢ったからこそ、色々と感じていることを言葉にしてみようと思えたから、こうして表現することができたからありがたいです。

幸いにも、僕が生まれた故郷である神奈川県秦野市は、緑豊かな木々や田畑に囲まれて、水と空気も澄み渡っていて、自分自身の氏名(使命)のルーツを辿れば辿るほど、この場所を選んで生まれてきてよかったと心から感じています。昔は、こんな田舎になにもない、と思っていた少年も「ここには自分自身のすべてがあったんだ」と思えるようになったあたりは、自分自身が変われば、目の前の景色が変わるんだ、ということを日々体感しています。

そんなこんなで「蘖状態」だったわけですが、秋分点を境にようやく気候が心地よくなってきて、数日前まではアルコールインクアートと同様に湿気で死んでいたのだけれども、爽籟が運んできてくれた秋の気配に風通しが一気によくなって身も心も軽くなってきています。

風通しが一気によくなってきたという流れに乗って、宣伝告知もさりげなくその流れに乗せようと思ったのだけれども(さりげなさない)、来月の10.1-11.30までのおよそ2ヵ月間。HACCK TAGさん主催の「LOVERY Art CONTEST」のコレクション作品としてパークホテル東京26Fのsoshare desital GALLERYにて【幻日】という作品がデジタル配信されることとなりました。

【幻日】

この【幻日】という作品は、4月の初個展【Φの箱庭】でも出展させていただいたものではあるのですが、今回の企画展示会の方向性にもピッタリだと感じ、エントリーさせていただいたところ、選考通過のお知らせをいただき、展示する運びとなりました。

今回、展示させていただくパークホテル東京は個人的にも感慨深くご縁があるところであったので(一昨年、偶然パークホテル東京の宿泊チケットが当選し、アーティストルームの方に宿泊させていただきました)、「いつかはご縁があれば…」と思い描いていたところ、2年の歳月を経て、再びつながることができました。

詳しい展示会の詳細については、また後日お知らせさせていただければと思います。それ以外にもまだ公には伝えられませんが、来年はじめあたりにめちゃくちゃ素敵な空間で展示させていただくご縁があり、今年度中には良いお知らせが出来るかもしれません。


ここまで無我夢中で気がつけば3000字近く…。ついてきてくださった方、ありがとうございます。きっともしかしたら、ここまで目を通して下さった方の中にも、僕とおなじように「蘖状態」の人もいるんじゃないかと思います。きっとそんな今が、一番自然と調和しているのかもしれない。大切なことを教えてくれた人がいました。どんなことがあっても、今の感じ方次第で自由に世界を感じられる。


最後に…訂正させてください。
「蘖」は春から夏にかけてグンと成長してゆくものだそうです。なので、夏から秋にかけての「蘖」はどちらかと言えば「季節違いの蘖」になるのかもしれません。
そして、「蘖」は急に成長するところからも「緑の革命」とも言われる方もいるみたいです。「空虚」を感じてからの「革命」ってなんだか素敵ですね。生まれ変わりの時。


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