温かい、重い、柔らかい。【ショートストーリー】
猫の毛にさらさらと肌をなでられて、目が覚めた。
腹のうえで丸くなり、じっとこちらを見ている猫の額をなでる。
首元に巻きつけられた夫の腕が暑苦しい。
大きな手から逃れてベッドを降りようとすると、ぐっと肩を引き寄せられた。
夫と猫と、わたし。ひと塊になって動けない。
昨日までは旅先でシングルベッドをひとり占めしていたのに。
ベッドから脱け出そうともぞもぞ動いていると、「おかえり」と、夫が目を閉じたまま呟いた。
「ただいま」そう答えると、夫は安心したように微笑んで、すぅっと眠りに引きかえす。
ただいま。その4文字を待っていた、愛しいものたち。
幸せに胸が詰まりそうで、猫をぎゅっと抱き直し、夫の胸に顔を埋める。
温かくて、重くて、柔らかい。
ぱたぱたと雨音が窓を打つ。
持ち帰った服を洗濯しようと思ってたのに。
まぁいいか、この雨がやむまでは。
ちいさなふたつの愛情に守られて。優しい眠りへ戻っていった。
お読み頂き、ありがとうございました。 読んでくれる方がいるだけで、めっちゃ嬉しいです!