「またね」をぐっと、飲みこんで。
小学生の時に瀕死のハムスターを診てもらった動物病院は廃業し、跡地にはスターバックスが建っていた。
大好きだった男と暮らしたアパートは更にボロくなって持ちこたえ、大嫌いな男が住んでいたレオパレスは脆弱なまま壊された。
ヤリマンだったあの子は二児の母となり、白いタキシードを着て笑っていた彼は独身に戻った。
故郷でとれた魚で寿司を握るインド人の手つきは鮮やかで、味は抜群にうまい。
海外からの観光客で溢れ、増え続けていたドラッグストアが一軒潰れた。
両親は徐々に小さくなり、姪っ子は急速に大きくなる。
変わらず大きな空の下で、スマートフォンが音もなく時を刻む。
さようなら さようなら
わたしの帰る場所は、もうここじゃない。
さようなら さようなら
つぎに来るときは、きっとまた別の街になっているから。
「またね」なんて、言えないよ。
お読み頂き、ありがとうございました。 読んでくれる方がいるだけで、めっちゃ嬉しいです!