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26日目:つめたい【冷たい】→掌編小説
つめたい【冷たい】
① 物の温度が低くてひややかである。
② 愛情や思いやりがない。やさしさ・あたたかさがない。
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ベルトコンベアに乗せられ、機械から吐き出されるご飯は冷たい。
白飯はお弁当の容器に押さえつけ成型され、おかずや漬物を詰める次の作業員のもとへと運ばれる。
工場で食材を容器に詰める作業を、“お弁当作り”と思ってしまうと、ライン作業はできない。
白飯が見えないように肉を伸ばす作業
ひたすらにタレを塗る作業
麺類を平らに押し付ける作業
ひたすらに刻みのりをかける作業
すべては“作業”だ。重要なのはラインを止めないことで、味や品質については、私たち作業員の関与することではない。
ベルトコンベアに乗って、気が遠くなるほどの食材が目の前に来ては流れていく。流れていく先がどこか、誰のもとに届くかなんて、知らなくていい。
ただ目の前を流れていく容器に詰める。食材を傷めないよう室温の低く設定された工場で、詰める、詰める、詰める。
8時間の作業を終えて、制服を脱ぎバスに乗ると、少しずつ冷えた体が温まってくる。目をつぶって、ベルトコンベアを流れていったお弁当の、行きつく先を想像する。
残業続きのサラリーマン、育児につかれた母親、学習塾で夜を過ごす子供達、、、、
たくさんの疲れた仲間たちに、心の中で『お疲れさま』を言い終える頃、心身の熱を取りもどす。人間に戻った私は、ふっと小さく息をつく。
バスを降りて、人ごみにまぎれて街へと運ばれていく。朝になればまた、工場へと運ばれる。今日も、明日も、明後日も。
それでも、ちゃんと毎日、人間に戻れるように。私は毎日、会ったこともない仲間たちに、『お疲れさま』を言い続ける。今日も、明日も、明後日も。
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