33日目:はないちもんめ【花一匁】→掌編小説
はないちもんめ【花一匁】
子供の遊戯。二組に分かれて「勝ってうれしい花一匁」などと唱えながら,じゃんけんで相手方の子供を取り合うもの。
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窓の外から、子供たちの歌声が聞こえてきた。
「かーって嬉しいはないちもんめ」「まけーて悔しいはないちもんめ」
「あのこが欲しい」「あのこじゃわからん」
今の子供たちも、はないちもんめなんて古風な遊びをするんだなと思い、窓から向かいの保育園を見下ろした。何名かの保育士と、小さな子供たちが手をつなぎ2列の線となって動いていた。
子供の頃、はないちもんめで、最後の一人になったことがある。
一人、また一人と仲間がいなくなって、友達と二人で取り残されたとき。
向こう側の子供達が相談して選び、声を合わせて叫んだのは、隣の女の子の名前だった。
わたしは一度も自分が選ばれなかったことで、すでに泣きそうだった。彼女がじゃんけんに負けて、嬉しそうに向こう側に駆けて行くのを見ながら、じわじわと溢れてくる涙を止めるため、唇を噛みしめた。
繋ぐ先のない両手のやり場に困りながら、「まけーて悔しいはないちもんめ」と、足を高くふりあげた。ひとりで歌うその言葉はとても屈辱的で、わたしの声は、向こう側に届かないんじゃないかと思うくらい弱々しかった。
自分の名前が呼ばれる前に、園庭での遊戯終了を告げるチャイムが鳴った。
わたしは向こう側に加わることも出来ず、ひとりぼっちで取り残されたまま、みんなが笑いながら部屋に戻っていくのを眺めていた。
窓の外の子どもたちの列は、長くなったり短くなったりしつつも、だいたい同じ長さを保っていた。
そのままで。誰も取り残されないように。
午後の日差しが和らいでいくなかで、終わらない歌声と笑い声だけが、響いていた。
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