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ワルリダンス。みんなで回って獲得するもの

インド先住民ワルリ族の村へ通い始めて9年。行くたびに強烈に自分の身体に刻まれるもの、それはワルリ族たちのダンスパワーだ。

ワルリ画は昔の暮らしを表現しているの? と聞かれることがあるけれど、そんなことはなくて、現代の暮らしがそこに描かれている。人々はかまどに薪をくべてご飯をつくるし、パチンコ(スリングショット)を手にジャングルを散歩して、ときに食糧の鳥を落とす。20代の友人たちの話だ。

ワルリ画のモチーフとなっているワルリダンスは、田植えの日から稲刈りまで毎晩のように繰り広げられる。円ではなく、螺旋状に人々がつながって踊る。ひとり置いた先の人と手をつなぎ合うので、隣の人とはぴったりくっつく密密状態。ダンスには豊穣への願いが込められていて、輪の真ん中ではシャーマンがタルパーというウリ科の植物で作った管楽器を吹き鳴らす。この手作りの楽器がとてつもなくて、倍音倍音で鼓膜と脳をダイレクトに刺激してくる。

ステップは盆踊りのようにいくつか決まったものがあるが、興に合わせタルパー演奏が早くなり、ステップも半端なく早くなっていく。ステップが追いつかないと宙に浮いたままグイグイ回ることになる。木々に囲まれたジャングルの夜に汗が飛び散る。息が苦しくなってやがてスポンとトランス状態になっていく。

幾重にも重なる螺旋。グルグル回りながら人々の思いが立ちのぼる。うねるような倍音のミュージック。そこからでるエネルギーたるや。

ワルリダンスに加えてもらった日から考えていることがある。身体表現のチカラだ。オリンピックのように、速度や距離を計測して競い合う身体表現もあるかもしれないけれど、もともと動物だった私たちは、美味しいご飯を食べて命を繋ぐために祈り、ダンスをした。思いを天に、この世界をつかさどる星々や天体や宇宙に届けるためにパワーを振り絞ったのだ。理屈じゃない。

タルパーは稲刈りが終わると、次の田植えまでは一切鳴らしてはいけないという不文律がある。あるシャーマンが「こいつの素晴らしい音を聴かせたいけれど、残念ながらいまはダメだ」と言っていたっけ。結婚式などで乾季に踊る時は、太鼓がある。

しかし、そんな村にも数年前から変化が訪れている。観光向けのダンス大会が開催されるようになり、乾季にもタルパーの音がするようになっている。そうでない頃を知っている身としては少し残念だ。後戻りはできないだろう。せめて、そうなる前があったことを、書き残しておきたいのだ。


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