【短編小説】 霊感タオル その9
のお堂には誰もいない様子だったので、奥の社務所へ行ってみた。
引き戸のサッシを開けて声を掛けてみた。
「あの、すいません。どなたかいらっしゃいませんか。」
シーンとしていて、誰も近くにはいない感じがする。
お堂の方を覗き込むと、窓からの日差しでシャキーンと頭を輝かせながら、お坊さんがこちらへやってきてくれた。
「はいはい、お待たせしました。どちらさまでしたかな。」
ラッキーなことに恐らく住職さん。
「あの。。浜波と申します。母がいつもお世話になっております。」
「ああ、浜波さんの息子さん? 大きくなったねぇ。」
お寺のこども会に入っていたけど、顔が殆ど変わらないのと変わった苗字なので覚えていてくれたらしい。
「お久しぶりです。」
「はい、こんにちは。何のご用事ですかな。」
住職さんが、自分の握っていたタオルをチラっと見た。
「お、当たりのタオル。浜波さんに当たっていたんですな。」
「あの・・、このタオル・・」
住職さんがタオルを見て、そして自分の顔を見てにっこりと優しく笑いかけて来た。
「あなた、とても良いことをしてくれたようですな。ちょっとこちらへいらして下さるかな。」
住職さんに促されて、お堂へ一緒に入って行った。
「あなたのお陰で、とても助かった方がいらしたようですな。でも、もう少しだけ骨を折って下さいませんか。」
「住職さん・・、何か見えるんですか?」
「見えはしません。困っている方のお声が少しだけ聞こえる程度ですよ。タオルはもう役目を終えたようです。こちらをお持ちくださいな。」
御守より、ひと回り小さい小袋をふたつ手渡された。
「何ですか、これ? このタオルと関係あるんですか?」
「幸せになるようにお祈りしていますが、困っている方にも効き目があったようですな。」
「・・これ、どうしたら良いんですか?」
「困っている方にひとつ差し上げて下さい。もうひとつはあなたがお持ちになっていて下さい。」
「あの、、、あげられないんですけど。」
「会って、話を聞いてあげてください。その時にこちらを差し上げて下さい。それでもう十分。」
「会うって・・会うんですか? どうやって?」
「会えますよ。あなたなら大丈夫。」
住職さんがポンポンっと自分の肩を叩いて、社務所まで見送ってくれた。
「何かあったら、またいらっしゃい。お母さまにも宜しくお伝え下さいな。」
「これ、何なんですか?」
タオルと小袋を差し出しながら聞いてみた。
「タオルはいまはもう便利なタオルです。小袋は御守と思って頂けたら宜しい。」
「見ても・・?」
「お清めをしたお塩ですよ。ご覧になっても面白いかどうかはわかりませんな。」
住職さんがにっこり笑って教えてくれた。
どおりでタグの中身は消えたはずだ。
このまま帰りたかったけど、取り敢えずちょっとだけ実家へ寄ることにした。
「ただいま。」
「あら、ホントにお寺に行ったのね。」
手元の御守を見ながら母さんが言った。
「住職さんが母さんに宜しくね、だって。」
「あら、そお。何しに行ったの?」
「ちょっとね、もう用事は済んだから帰るよ。」
「お父さん、まだ帰って来ないのよ。」
「いいよ、また近いうちに来るからさ。またね。」
「体に気を付けなさいよ。また帰って来なさいよ。」
母さんも住職さんと同じように、にこにこしながら手を振って見送ってくれた。