【短編小説】 霊感タオル その10
月曜は小袋とついでにタオルも一緒にカバンへ入れて出社した。
田島と自分を交互にチラチラ見る社員の静かな熱視線が実に鬱陶しい。
きょうは特に出るなと言われることも無いから、外出しようと準備をした。
今週は確実にどこへ行っても同じことを聞かれて、同じことを答えるんだろうと思うと、気は進まない。
けど社内に居たって、聞かれる「内容」が違うだけで多分同じだろう。
「きょうも公園にちょっと行ってみる。」
田島の席の後ろを通る時に、小声で言った。
田島は振り向かないで、ひとつ、うんと頷いた。
案の定、どこへ行っても事件のことを聞かれるだけの午前中だった。
午後も間違い無く同じはず。
昼ご飯を安定の大盛りかけそばで済ませて、公園へ行ってみた。
来てはみたけれど、入り口から中へ足をいま一つ進めることが出来ない。
例のベンチが見える、その向こうの奥の辺りには規制線がまだ張られているのが見える。
公園でいつも聞こえていた子供のキャッキャする声が、あまり聞こえないような気がする。
まだ、日が浅いから、仕方無いか。
ベンチは木陰状態、住職さんの「会って話を聞いてあげて欲しい」場所はきっとあそこだろう、奥の木の所では無い・・・と思いたい。
カバンに手を突っ込んで小袋を握ってみた、いるんだったら、出来たら今来てくれないかと思いながら。
公園の中じゃないし、ベンチでもないし、ひょっとしたら、もうここじゃないのかもしれない。
何も聞こえないし、何も見えもしなかった。
午後の得意先にひと際しつこく聞いてくるおっさんがいて、ほとほと疲れて会社へ戻って来た。
席に着いて、コーヒーを飲みながら、実りの無い報告書を作り始めた。
キーボードを打ちながら、ぼんやりしていると、ほわっと女の顔が思い浮かんだ。
ベンチで話していたときの、困っている悲しい顔。
「お願いごと」は聞いたし、多分「希望」も叶えてあげられたはず。
住職さんの言う「聞いてあげて欲しいこと」がわからない。
ふと気付くと田島から短いメールの着信が来ていた。
「仕事もう終わるから、会社の外で待ってる。」
モニターから目を上げたら、
「じゃ、お先に。」
田島がつまらなそうな顔で立ち上がって帰って行った。
中身の無い報告書をペラっと仕上げて、自分もさっさと席を後にした。
会社の外へ出てキョロキョロしていると、駅の方へ歩く田島がいた。
走って追いかけたら、誰かに見られるとも限らないので、スマホをチラチラ見ながら見失わないように田島の後を追った。
駅を通り過ぎて自動販売機が並んでいる人気の無いところで、田島が立ち止まった。
周りに知った顔が無いのを確認して、田島のところまで歩いて行った。
「会えた?」
自分のカバンを指差しながら聞いて来た。
「いや、公園の中には入らなかったから。。」
「そうだよね、ちょっとキツいよね。」
そこで実家に行ったことと、住職さんから聞いたことを話した。
「ああ、そうだったんだ。で、追加で小袋をね。。幸せのお裾分けなのかね。変わった住職さんだね。」
タオルと違って、田島は小袋には触らなかった。
「で、どうすんの?」
「どうって?」
「まだ、話があるってことでしょ?」
「・・・、何だと思う? 頼み事も聞いたし、希望も叶った訳でしょ?」
「分かる訳無いじゃん、私にさぁ。浜波さんしか出来ないんじゃないの、タオルも小袋も浜波さんの所に来たんだもん。」
「出来るとか、出来ないとか、何なんだよ。ってか、田島は何で何かを普通に理解出来ているの?」
「理解なんかしてないし、そんなことは、どうでも良いでしょ。」
田島が駅の方へ戻り始めた。
「どうしたら良いかな?」
もう田島は一緒に公園へ行ってくれることは無い気がして、一気に心細くなった。
「同じようにすれば良いんじゃない。住職さんが大丈夫って言うなら、きっと大丈夫。」
「何が大丈夫なんだろう。。」
「多分、何でもきっと大丈夫。幸せを祈ったものを持っているんだから。」
田島が振り向いて、楽しそうに言った。