【短編小説】 九死で一生を得た話。 後編
「んで、懐中電灯で足元を照らして、しっかり足場を確保して。
根っこ掴んでる女の手首を掴んで、少しずつ引き上げて。
上半身くらい引き上げて、最後によいしょって上に引き上げたの。
グって上げたから女から抱き付いてくる感じになっちゃってさ♪
メタル懐中電灯あるから、こっちは余裕じゃん?
金づちも釘も蝋燭も下駄も落っこちてるわけだし。
それに、ボロボロ泣いてんの。
怖かったんだろうな、釘を打ち込む自分も込みで。
小石ゴロゴロで足元悪いし足袋だからおんぶしてさ、
一緒にゆっくり車まで降りて行ったの。
車にあったコーヒー飲ませて、話を聞いたわけよ。
会社の上司と不倫してたんだって。
嫁と別れて結婚するからって言われて、
ダラダラ付き合わされて。
聞いたら25歳で、上司52歳ってさぁ、
娘ぐらいじゃねぇかって!!
新入社員の頃に人間関係で悩んで、相談乗ってもらってから、
そのまま・・・って、昼ドラみたいな話。
クセの悪いオヤジにいいようにされて、あげくにコレ。」
赤ちゃんが出来たリアクション。。
それよりも、よっちゃん、よく車に乗せたね、、
飼育係最強説。。。
「そしたら、あっさり捨てられて、会社に居場所も無くなって終了。
それでたまたま見ていた動画のオススメに『丑の刻参り』が出て来て、
これなら自分にも出来るかも、で、本日からレッツ★スタートよ。
かつーんって。
そしたら、初日からバレて、崖から落ちて。
殺そうとしたのに助けて頂いてって、大号泣よ。
それがきっかけでコレは結局、流れたんだけど。
まあ、呪い返しってホントにあるんだろうね。
コレが先に見てたってことなのかもね。。。」
ちょっと下を向いたよっちゃんのまぶたが赤い。
メタルの熱き心。。。
「まあ、九死に一生を得たわけよ。
コレが九死持って行ってくれたけど、
強めな一死が残ってたんだか・・・
ガンになっちゃった。」
なんで?
何でそんなに身の上に詳しいの??
「オレさぁ、山に行ったのって、自暴自棄でさ。
バンドも上手く行かなくてチャンスが全然無くて。
展望ゼロで何やっても上手く行かないし。
案外、女に会わなかったら・・・
オレも九死に一生を得たのかもな、あっはっは!!」
よっちゃん。。。
すると話している喫茶店のドアが気持ち良くカランカラン鳴って、
小柄でセミロングな女性が入って来た。
「これからこっちでガン治療するんだ、彼女。
空気の良いところで落ち着いてさ。
小日向のオヤジって、規模は小さくても実はガン治療の名医らしくて。
小日向からオヤジさんに話して貰ったの。
そしたら、オレが戻って来て家を継ぐ気があるなら面倒見てやるって。
ほら、ガンの治療って髪が抜けるっていうだろ?
農家さ、別に長髪いらねぇじゃん。
初めて役に立つわ、オレのロンゲ!
ここも人口増えたら助かるべ、あっはっは!」
女性がよっちゃんを見つけて「よしおさんっ」て、
にこにこしながら駆け寄って来た。
夜中に藁人形に五寸釘を打って、
ロンゲのメタルを殺そうとしていたとは思えない、
華奢で幼い顔立ちの女の子って感じの女性。
これが、よっちゃんが急に帰って来た理由。
・・・と、流行りの『その女性が、今の彼女です話』。
しかも、近いところで「お嫁さん」だって。
急に帰って来て、先を越すかね。。。
メタルは優しさも鋼鉄だ。
良男っ・・・!
強い・・、熱いぜっ!!
これからみんなで頑張ろうぜ、よっちゃん!!!