【短編小説】 九死で一生を得た話。 中編
「ひざだけじゃなくて、腰にもキタんだよね、抜けるっていうの?
道の片側が壁で、逆が崖なのよ。
木が鬱蒼と茂ってて月明かりと懐中電灯だけで視界最悪なわけ。
上の方からはシュシュシュだけじゃなく、ザザザって。
降りて来るのよ、ヤバイやつが。
ゆら~っとした灯りってのは、ロウソクなのよ、
五徳で3コアの。
暗さに目が慣れてたから、遠くでゆら~っとしたのが見えて。
細い道で片側が崖なのをものともしないで駆け下りて来んの、
わかる? 一本下駄で白装束の足元よ!」
何でそんなに詳しいのか・・・
あ、読書家だったな、よっちゃん。
「2、3歩、後ろに退けたけど、腰がイっちゃって、ヒザはフルッフル。
オレ、ベースだからデス声で威嚇も出来ないし。。。」
ギターじゃなかったの?
でもそんなのどうでも良い!!
「真っ白でオレより髪の短い女が軽快に駆け下りて来んの。
スニーカーくらい、履きなれた感じで。
右手に金づち、左手に細い棒・・、五寸釘ね、たぶん。
あ・・、終わった・・って、思うじゃん、
オレの心臓にかっつーんって、撃ち込むのかなぁって。
そしたら、ガッて女が例の石に躓いたわけよ!
単に坂で勢いついてただけなのよ、抜群に不安定な一本下駄で。
メタル懐中電灯にタメ張れるだけあって、躓かせるよね、石。」
石、最強説。
「そしたら、よろめいて崖の方に落ちたのよ、一本下駄女が。
土と石が転がっていく音が聞こえてさ、助かったって思ったね。
サンクス、石ってさ。
安心したら完全に力が抜けて、ひざからストーンってくずおれて。
石だけに、イッシッシ~よ!
は~って息をついたら、横からも『はー、はー』って。
もう空唾ごくりよ、まだ、いるじゃねぇかって!
小さい声で『たすけて・・・』って言ってくるわけ。
さっきまでカツンカツン誰か呪ってて、
ついでにオレに一発打ち込みに来た一本下駄女がさ。
ダマかと思ったから、しばらくオレも動かなかったの。
まあ、ひざのフルフルが腰まで上がっちゃって立てなかったんだけど。
でもズルズルって落ちていく気配があるのよ、女に。
いざって時は石を投げつけてやろうと思いながら、
懐中電灯で声の方を照らしたのよ。
そしたら、木の根っこにつかまって殆んど女が落ちかかってて。
もう声も出なくなってるみたいでさ。
照らされたのに気づいて女が顔をチラっと上げたら泣いてんの。
何か、不憫に思っちゃって。
オレに釘を刺そうとしてたけど。
このご時世にこんなことするのは、
それ相当なことがあったのかもって。
それに、オレが見殺しにしちゃうわけじゃない?
ほっといたら。
それは、人として出来ないじゃない?」
5年生の時に飼育係だった、よっちゃん。
徹夜でうさぎのお産を見守っていたね。。。
・・・つづく