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メトロカード/NYC

NYCのメトロカードがいよいよ廃止になるらしい。

これはニューヨークのメトロ乗車に使えるプリペイド式のカードで、日本で言えば交通系ICとほとんど同じ機能を持つが、その仕様は一昔前の定期券のような、磁気式で改札に通すタイプのカードだ。

この”改札に通す”がなかなか曲者で、力加減、タイミングなど少しでもズレれば改札は開かない。

10年ほど前、ぼくが初めての海外一人旅としてNYCに渡航する際、送り出してくれた張本人、中学時代の塾でお世話になったS先生、N先生は揃って「帰るまでにメトロカードでスムーズに改札を通って来られるように」とチャレンジを課した。なんでも、かつて中学生の一団を引率した際には、誰も使いこなすことができず、常に改札まえで団子になってしまったそうだ。


舐められたものだ。

そんなヒヨッコ連中と一緒にされては困る。ぼくは「絶対に一発で改札を通過してやる」と、胸のうちに誓い、両先生から得たわずかな供述を頼りに、イメージトレーニングを繰り返した。


さて、密かな反骨心と共に降り立ったNYC、改札を目の前にしたぼくは、何十回と繰り返したイメトレの成果を発揮し、見事スムーズに改札を通過。

「見たか!」

不安だらけの異国の地で得た最初の達成感だった。なんでも良いから二人に認められたいと思うぼくにとって、とっておきの土産話ができた。

結局、ぼくは一度も改札にハジかれることなく行程を終えた。

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帰国後真っ先に立ち寄った学習塾で、早速様々な冒険譚を披露する。

先生たちからすればどれもチャチなエピソードだろうに、二人は優しく、大袈裟に驚いたりしながら話に聞き入ってくれた。メトロカードのくだりは特に熱を持って伝えたつもりだが、これについては先生たちも「まさかー」と冗談めかしたからかいの合いの手を入れる。うーん、果たして信じてもらえたのだろうか。


・・・


旧いものが時代に流されようとするときは、いつも思い出したように寂しさを覚え、大した思い入れがないものにすら、なんだか愛おしさを感じる。

とは言え、このメトロカードに関して言えば、むしろテレホンカードのような前時代的なものが今もマンハッタンで現役だったことに対する驚きの方が大きい。故にそこまでの寂しさこそ持たなかったが、強いて言えば、先生たちの前で、ぼくがスムーズに改札を通過する姿を見せられないのが少しだけ残念に思えた。

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