映画館問題に見る「合理的配慮」論
某映画館に行った方が、「次回以降は別の劇場に行かれた方が、お互い気持ちよく過ごせるのではないでしょうか」という意味の事を言われた事で、物議を醸している。
今回は、障害のある方に対する合理的配慮について、この件を基に考えてみたい。
なお、本ノートでは、「障害の社会モデル」(障害は人ではなく、社会側にある)という考えに基づき、障害は全て漢字表記としている。
予め、ご了承願いたい。
今回の件については、まず2つの事に触れておかなければならない。
1.今回の騒動の経緯
2.合理的配慮とは何か
という事だ。
1.今回の騒動の経緯
今回の騒動は、車椅子ユーザーの方のXへの投稿に端を発する。
ある車椅子ユーザーの方が、車椅子用ではない座席(プレミアムシート)を購入し、席への移動に際して、映画館スタッフの方が介助したらしい。
そのような事はかれこれ3度目くらいだったらしいのだが、今回は映画を観終わった後で、いつもと違う出来事があった。
上映後に、映画館の支配人(責任者)のような方が来られたというのだ。
そして言われたのが、本記事冒頭の内容だ。
このXへのポストがきっかけとなり、某映画館の運営元が謝罪する事態となり、車椅子ユーザーの方にも映画館側にも賛否両論巻き起こった……というのが、大方の経緯だ。
2.合理的配慮とは
では、本件に際して話題になった、合理的配慮とは何なのか。
インターネットで検索したところ、
「合理的配慮」とは、障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。
……のだそうだ。
以上の2点を前提として、改めて考えていきたい。
3.合理的配慮は為されていなかったのか
では、本件において、合理的配慮は為されていなかったのだろうか。
まず、車椅子の方を他者と平等に扱うのは、なかなか難しい。
映画館においては、車椅子を使っている方の席を、出入り口近く(結果的にスクリーンの前方)に設置しているそうだ。
理由は、避難等が必要になった時に、迅速に避難が行えるように……という事のようだ。
これは、安全配慮という観点からは妥当だが、映画の観易さという観点では、他者と平等であるとは言えない。
健常者と違って、車椅子の方は席の場所を選べないのだから。
そういう意味では、映画館における合理的配慮は、まだまだ改善されるべきなのかもしれない。
合理的配慮の定義が、先述したものである限り、
本件においては合理的配慮が充分に為されていた、とは言えないのかもしれない。
では、映画館が以降の来館を断った事は、合理的配慮の考えに反するのだろうか?
ここが難しいところで、設備面・制度面で見れば、映画館の合理的配慮は、不十分であったかもしれない。
しかし、今の設備、今の制度での運営を考えるのであれば、今後の来館をお控え頂く事は、合理的判断だったのではないだろうか。
そもそもで言えば、客には店を選ぶ権利があるし、店には客を断る権利がある。
もちろん、来店拒否をした店は、その結果起きる批判にも責任は負わなければならない。
今回の件で、件の映画館からユーザーが離れるなら、それは映画館の責任で受け入れなければならない。
しかし、私には今回の判断が、著しく不適切なものには思えないのだ。
だって、映画館側には、車椅子の方に健常者と平等な環境で映画鑑賞できるようにするだけの設備も、制度も、人的リソースもないのだから。
ここが本件の納得いかないところで、運営元は謝罪しても良い。
謝罪しても良いけど、果たして従業員の不適切な対応についてを謝罪すべきだったのだろうか。
私は、そうではないと思う。
今回、運営元が謝罪すべきだったのは、障害のある方が、健常者と同じ環境で映画を観られるように、設備、制度、人員を整備していなかった自分達の不手際、だったのではないだろうか。
先程も述べた通り、本来、店側には来店を拒否する権利がある。
それが適切か、不適切かは、個々のケース依ると思う。
本件に関しても、適切だったのか不適切だったのかは、今出ている情報だけではわからない。
我々は、本件を、車椅子の方側の発言でしか知らないからだ。
本件に至るまでの詳細な経緯がわからない以上、安易に判断はできない。
もしかしたら、
「次回以降は、車椅子用の座席をご利用下さい。他の方と同じように鑑賞できる環境が整備できておらず、申し訳ありません。」
くらい言っておけば良かったのかもしれない。
だけど、車椅子の方をプレミアムシートまで介助して案内するのは、映画館スタッフの業務も、合理的配慮の域も超えているのではないだろうか。
過度の負担であると、個人的には感じる。
ここに至るまで、何度か同様の対応をしてしまった映画館側にも、申し訳ないが落ち度があると思う。
そりゃ、1回やってもらったら、「前はやってもらえたのに」ってなるよ。
オレもミスド時代、お客さんの為と思ってルール違反した事はあるよ。
ミスドのホットコーヒー・ホットカフェオレっておかわり自由なんだけど、当たり前だけどおかわりの時に種類は変えられないんよ。
でも、コーヒー飲んでたけどカフェオレおかわりしたいとかってお客さんが、たまにいるんよ。
そんな時は、
「本当はダメなんですけど、今回は特別にお入れしますね。その代わり、おいしかったら、今度ぜひ注文して下さいね!」
って、必ず申し添えてた。
じゃないと、「前はやってもらえたのに」とか、「あの人(あの店)はやってくれたのに」ってなっちゃうから。
映画館は、継続して無理なく運用できないのであれば、初めからお断りすべきだったのだと思う。
しかし、合理的配慮って、本当にこれでいいのかね。
だって、障害のある人と健常者って、明らかに違うよ。
それくらい、障害って大変だ。
不幸かはわからないけど、不便である事は間違いないでしょ。
それを、「他者との平等を基礎とするよ。だけど過度の負担を課さないよ」って、かなり無理がないか?
そうなっていけば最高だと思うけど、それって企業や社会に対して、過度な負担を課してないかい?
って思っちゃう。
ぜひ国には、合理的配慮を不足なく実施できるよう、公共・公共でないに関わらず、様々な施設に補助をして欲しいと思う。