見出し画像

【守りから攻めへ】賃上げ・利上げ時代の中小企業の生きる道(上)~わらしべ長者戦略~

  1. 賃上げ・利上げが迫る攻めの経営

  2. 中小企業が陥りがちな落とし穴

  3. 中小企業の成長戦略①わらしべ長者型

1.賃上げ・利上げが迫る攻めの経営

攻めの経営への転換

前回記事でも賃上げ・利上げが進んだ事で従来の「現状維持でOK」という
経営が成り立たなくなり、中小企業も
「毎年成長し、従業員・取引先に利益を還元する」経営に
転換を迫られている事をお話しさせていただきました。

同様の趣旨の発言は3月23日(土)の産経新聞にも掲載されています。
従業員から、自社の賃上げについて要請を受けたという経営者様が
私の周りでも出てきています。

今後銀行や取引先からも自社尾成長戦略について
質問される機会も増えてくるのではないでしょうか。

今後銀行や取引先からも自社尾成長戦略について
質問される機会も増えてくるのではないでしょうか。


前回の記事でも触れましたが、「賃上げ+利上げ」が始まる前から
成長戦略を描き、急成長を実現されてきた中小企業は存在します。

私自身、前々職の金融機関で新規事業や創業の審査に携り、
直近は中小企業から一部上場クラスの大企業の新規事業開発にも
携わらせていただきました。
中小企業の場合、5年で売上高3~3.5倍になったケースもあります。

今回はこうした経験を振り返りながら、中小企業の事業拡大の秘訣を
検討していきたいと思います。

守りの経済の弊害

バブル崩壊以降、日本企業の方針は
「費用を可能な限り削減し、利益を増やす」でした。

低い経済成長・デフレ・上がらない賃金といった
「失われた30年」の間続いた現象は、こうした企業の動きと
無関係ではありません。

「費用を可能な限り削減し、利益を増やす」という方針は
金融機関が行う指導にも表れていました。

金融機関からすると、不確定要素が大きい売上高を追うより、
確実に読めるコストカットで利益を増やした方が、
貸したお金が確実に帰ってくるので、この方針での指導が合理的です。
返済条件リスケ中の会社等、再生フェーズに陥る会社はまずこの方針で
改善計画を考えます。

確実に利益を増やせるのですが、
将来への投資がおろそかになり、
中長期的な成長の絵を描けないのが弊害です。

日本中がその弊害に陥ったが「失われた30年」でしょう。

アメリカや中国をはじめ、他の国では新たな産業が誕生したのに対し、
日本は後手に回りました。
その結果、1990年代には世界トップクラスだった一人当たりGDPが下がり続け、2022年には32位まで低下しています。
日本は相対的に貧しい国になってしまいました。

先行する大企業

こうした状況を「さすがにまずい」見たのか、
新事業・新領域を開拓する動きは大企業で見られるようになっています。

大企業2022年頃当たりから、新規事業開発に
力を入れるようになったと感じています。

「新規事業」と名の付く書籍が増え始め、Googleトレンドで見ても
「新規事業」や「新規事業開発」といったキーワードが増えはじめました。
「新規事業開発」をテーマにしたセミナーも増えています。

今や大企業の中期経営計画には、必ずと言って良いほど
「新規事業」に関する記載があります。
もはや新規事業に取り組まない企業は、投資家から評価を受ける
事ができないという事でしょう。

「新規事業」をやる事が決まり、「新規事業担当」が
任命されるようになりました。
任命はされたものの、何をやったら良いかが分からないという状況が
2023年だったと思います。

2.中小企業が陥りがちな罠

政策的な後押し

大企業が投資家からの支持を得るために、
新規事業に取り組みはじめた一方、
中小企業に対してはその前から、長らく政策的な後押しがありました。

都道府県が行う経営向上や経営革新計画の認定等がそうです。
こうした制度と連動した低利融資は、
私の古巣である政策金融公庫の支援メニューに長らく載り続けています。

直近で一番インパクトがあったのは、2021年3月から公募が始まった
事業再構築補助金でしょう。
中小企業が新分野展開、事業転換、業種転換、業界転換、事業再編を後押しするというお題目自体は以前からあった制度と変わりませんが、交付される補助金の額が大きい事から、申請を行った方も多いのではないでしょうか。

コロナ対策の一環として登場した制度ですが、
国としても中小企業の「攻めの経営」を後押ししよう
という意図が見えます。

こうした後押しがありつつ、新規事業・新領域にリスクを冒して挑戦する
企業はここまで多くなかったのが現状でしょう。
一方、攻めに転じた企業がすべて成功できているかというと、
そうではありません。
陥りがちな罠があります。

陥りがちな罠

失敗するパターンで多いのが、「最初からいきなりホームラン」を
狙いにくパターンです。

政策的に補助金や資金調達の後押しがある事で、
中小企業が「攻め」に転じる際は、それまで使わなかったような
お金を集めやすくなります。

それもあって、企業側は最初から大きな投資を行いがちです。

私の自戒を込めて告白すると、金融機関から見ても大きな投資はおいしいのです。
お金を貸したいけど借りてくれなかった企業が、大きな投資をしようとするというのは、逃してはならないチャンスです。
しかも、政策的な大義名分もあればなおさら、計画に粗があっても、
アクセルを踏ませたくなるというのが正直なところです。

資金調達をできた企業はそのお金で投資をするわけですが、
元々やってなかった事をやる。
しかも、既に他に競合がいる事業か、
誰もやった事がない事業のどちらかをするわけです。
最初からうまくいくはずがありません。

大きな調達をして始めた新規事業ですが
利益が出ない。でも調達したお金は返さなければならないという事になり、
むしろ本業を圧迫する事になります。

金融機関で審査課にいた際に、
「企業を倒産させるのは赤字ではない。設備投資の失敗だ」と
アドバイスをいただきました。
実際、審査部門で扱う企業はこうした最初から大きな投資をして失敗してした企業も少なくありませんでした。

3.中小企業の成長戦略 ①わらしべ長者戦略

ではどうするのか。
前編では、「わらしべ長者戦略」を紹介します。

スタートアップに学ぶ新規事業の立ち上げ

新規事業・新領域進出の成功パターンは、ベンチャー・スタートアップ領域ではすでに確立されています。

リーン・スタートアップや、アジャイル型と言われる
小さく初め、顧客のフィードバックを受けながら事業を大きくしていく
手法です。

この辺りは色々な本が出ているので詳細は割愛しますが、
大企業で新規事業開発をサポートさせていただく場合も基本的には
この考え方で進ています。

中小企業の新規事業開発

中小企業が新規事業開発、新領域開拓を行う場合も考え方は同じ。
「いきなり完全なものを作ろうとしない」です。

製造業なら、いきなり設備を入れて生産するのではなく、
小ロットの受注生産から初めて見る。

小売店舗をはじめるなら、いきなり設備投資をするのではなく、
まずイベント等の出店をやってみる。

戸建住宅からいきなりゼネコンに転換するのではなく、
職住兼用の診療所とや商店からやってみる等ですね

このようにステップを区切る事で、
PDCAを回しながら事業を成長させらるし、一回のあたりの投資も減らす事ができます。
成功確率が上がるのは当然です。

ステップを区切る事によるメリットがもう1つあります。
to Bビジネスの場合、導入の際に「他社での事例」や「実績」の有無を
聞かれることが多いはずです。
ステップを区切って、アウトプットを出すと、完全版ではないものの、
目に見えるアウトプット・実績を提示する事が出来ます。

いきなりこれまでの本業と違うものを提案されても、
受け入れられませんが、
一歩前のアウトプット・実績が見えると、
ちょっと背伸びをすれば、狙っているアウトプットを作れることを
納得いただけやすくなります。

場合によっては、当初自社が考えていたものとは違う用途で
「これってこんな使い方はできないの」という問い合わせがを
頂けることもあります。

一歩前のアウトプットを見せ、顧客の声を聴きながら製品・サービスを
仕上げていくと、当初は想像していなかったような、大きなビジネスに
成長する事があります。

最初からホームランを狙うのではなく、
小刻みに実績を重ね、その実績を基により大きなチャレンジを重ねる事が
大きな成功につながります。


後編では「いなばの白兎戦略」を紹介します。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?