死の甘い香り。
久しぶりに暗いトンネルを通り抜けた6月。
トンネルの中で気がついたのは
「古い自分はちゃんと殺さなきゃいけない」ってこと。
人は原風景で負った傷を癒さない限り、同じような現実を創り続けてしまう生き物らしい。手放しても手放しても、昔感じていた悲しみや無力感がまた心のドアをノックしてくる。だから宇宙はわたしを真っ暗なトンネルに放り込んだ。過去の全てを手放させるために。
冷たいリビング。何回呼んでも振り返らない母。
ため息。ナイフと泣き声。
「死にたがる母を喜ばせるために、自分の命を捧げることが『愛』なんだ」って無意識に信じてきたことに、トンネルの中で気がついた。3年前に本当に母が死んでから、ぐちゃぐちゃな家族を立て直すために奔走したのも、きっと天国の母を喜ばせたかったんだと思う。でも家族が調和で満たされたいま、もう自分が演じる役はなくなっちゃった。
フラッシュバックする原風景にすら
もう母がいないのなら
私は一体、誰になればいいんだっけ?
誰かを喜ばせるために生きちゃう癖も
バランスがうまく取れない関係も
空っぽな家と一緒に
終わりにすればいいと思った
だって母は本当に死んだのだから
痛いのにずっと過去を手放せなかったのは、それがわたしと母を繋ぐ「愛」のしるしだって、どこかで信じてたからなんだと思う。だけど、もう古い自分は殺さなきゃいけない。痛みを伴う「愛」の延長線上にどんな新しい夢を描いてみたって、それはきっと砂上の楼閣。あの冷たい家にちゃんと火をつけよう。そしたら灰の中からきっと美しい不死鳥がまた生まれるんだろう。
灰色のトンネルの先に待ってたのは
7月の信じられないくらい鮮やかな光。
みんなの子どもみたいな笑い声。
満点の星空。優しい波音。植物の香り。
短冊に書く願い事。
少しずつ広がっていく、本当の「愛」の感触。
今度はちゃんと自分のために生きてみよう。
その先で母が笑って待ってる気がするんだ。