
vol.2 知らないとハマる悪循環のカラクリ ‐ 自信いらずの成功法則
前回、異業種交流会で観察された「表の顔と裏の顔の二面性」から、私たちの多くが抱える「こじらせビビリ」という現象について紹介しました。
「こじらせビビリ」
社会や周囲の期待に応えようとするうちに、本来の繊細で優しい自分を深く押し込めてしまった状態。その存在に気付かないようにし、認めることを避けている状態。
では、この「こじらせビビリ」はどのようなときに姿を現すのでしょうか?
まるで普段は見えない星座のように、特定の条件が揃ったときにだけ、その全容が浮かび上がってくるのです。
転職、起業、昇進、結婚、出産など、人生における重要な転換点は、「こじらせビビリ」にとって最も大きな刺激となります。
これらの場面では、通常以上に強い不安と自己疑念が表面化するのです。
例えば、昇進の打診を受けた瞬間。
本来なら喜ばしい出来事のはずが、「こじらせビビリ」はまず、「自信泥棒」となって姿を現し、
「今の私に、そんな重責が務まるのだろうか...」
「もし失敗したら、会社に迷惑をかけてしまう...」
「今の居心地の良いポジションを失ってしまうかもしれない...」
この様に徐々に最悪のシナリオを描き始めます。
まだ何もはじまっていないのに、想像だけでまるで崖っぷちに立たされたかのような恐怖と戸惑いが押し寄せ、結果として、挑戦する前から可能性の扉を閉ざしてしまうのです。。
あるIT企業の田中さん(仮名)は、海外部門の責任者への昇進を打診された際、一週間の猶予をもらいました。
そしてその一週間、彼は夜も眠れないほどの不安に襲われたんです。
最終的に彼は「英語力に自信がない」という理由で辞退したが、実際の英語力は十分だったんです。
後に彼は私に打ち明けました。
「本当は、責任を負うことが怖かったんです。失敗して周りに迷惑をかけるくらいなら、最初から挑戦しない方が安全だと思ってしまって...」
これこそが「こじらせビビリ」の典型的な思考パターンです。
可能性よりも安全を、挑戦よりも現状維持を選んでしまう。
そして
最も注目すべきは、その選択が「自分を守る」という名目で行われることなのです。
日常の些細な場面での出現
実は「こじらせビビリ」は人生の大きな岐路だけでなく、日常の些細な場面でも姿を現します。
- 上司や先輩との会話で、自分の意見を求められた時
- チーム内で新しいプロジェクトの提案を任された時
- 同僚から食事に誘われた時
- SNSに投稿する前、「いいね」の数を気にして何度も書き直す時
- メールの文面を何度も読み返し、送信するか迷う時
「嫌われたくない」「仲間外れにされたくない」「批判されたくない」という人の根っこ辺りにある不安から、自分の本来の意見や考えを抑制し、過度に相手の意向に合わせてしまうのです。
このような行動は一時的な安心感をもたらすものの、長期的には自己表現の機会を失わせる結果となります。
それどころか、、、
マーケティング会社で働く佐藤さん(仮名)は、毎週の企画会議で優れたアイデアを持ちながらも、なかなか発言できずにいました。
しかし会議後のSNSでは、「今日も素晴らしいアイデアが出た会議だった!」と投稿します。
この矛盾した行動の裏には、「こじらせビビリ」の特徴である「理想の自分」と「現実の自分」のギャップがあるんですね。
彼女は「積極的に意見を言える人」になりたいと思いながらも、実際の場面では恐怖に縛られてしまうのです。
「こじらせビビリ」の悪循環
「こじらせビビリ」の最も危険な特徴は、それが自己強化的な悪循環を生み出すことにあります。
この循環は、次のようなプロセスで進行しているようです。
1. 不安の発生: 何らかのきっかけで自信泥棒が現れ不安や恐れが発生する
2. 先回り思考: 失敗のシナリオを先回りして想像する
3. 回避行動: 不安から逃れるために状況を回避する
4. 一時的な安堵: 回避することで一時的な安心を得る
5. 後悔の反芻: 後になって「挑戦すべきだった」と後悔する
6. 自己評価の低下: 「自分はダメな人間だ」という思いが強まる
7. 次の機会での更なる不安: 自己評価の低下により、次の機会ではより強い不安を感じる
このサイクルが繰り返されるたびに、「こじらせビビリ」はより強固なものとなり、日常生活のより広い範囲に影響を及ぼすようになります。
例えば、30代の女性、中村さん(仮名)のケースは、この悪循環の典型例です。
中村さんの「こじらせビビリ」は、些細な失敗への不安から始まりました。
新入社員の頃は、発言の機会があれば積極的に手を挙げ、自分の意見を述べることができていました。
しかし、ある日のミーティングで、彼女が熱心に説明していた企画案に対して、上司から予想外の反応がありました。
「それって、どうなの?」
この何気ない一言を、彼女は自分の存在が否定されたとして受け取ってしまったのです。
この日を境に、彼女の中で何かが変わり始めました。
最初は「次は完璧な提案をしよう」という前向きな気持ちが持てました。
しかし、その完璧にしようという考えが逆効果となり、提案の準備に異常なまでの時間を費やすようになりました。
どれだけ時間をかけて丁寧に作っても「まだ足りない」という不安が消えることはなく、準備することが億劫になっていき、次第に提案自体を避けるようになっていったのです。
こうして彼女の「こじらせビビリ」は、仕事のあらゆる領域に広がっていきました。
チーム会議での発言が控えめになり、社内イベントへの参加を見送り、同僚とのランチも「仕事が忙しい」という口実で断るようになりました。
予定外の出来事に直面すると、「うまく対応できないかもしれない」という不安が雪だるま式に膨らみ、自覚のない回避行動の連鎖が始まるのです。
「体調が悪い」(本人としては本当に体調が悪いと感じている)「急な用事ができた」といった言い訳を作って、その場から逃げ出そうとします。
最終的には、自ら希望していた重要プロジェクトからの離脱を申し出るまでに至りました。
これらは「こじらせビビリ」が深刻化していることを示す典型的な例
です。
小さな不安が、時間とともに肥大化し、最終的には自身のキャリアや人間関係まで蝕んでいくのです。
人生の転換点における「試練」での意思決定は日常生活に大きな影響を及ぼし、逆に、日常での「ビビリ」体験は、重要な岐路に立たされた時の判断をより一層難しくしてしまう。
「こじらせビビリ」は、私たちの知らない間に日常と人生の重要な局面を密接に結びつけ、終わりのない悪循環を生み出していました。
「見えない心の地図」の存在
私は長い間、なぜ「こじらせビビリ」がこれほど強い影響力を持つのか、なぜ私たちは理性的には理解していても感情的には変われないのか、について考えてきました。
そして、ある重要な発見にたどり着いたのです。
それは、私たち一人ひとりが、「見えない心の地図」を持って生きているということです。
この「心の地図」とは、私たちの幼少期からの経験や記憶によって描かれた、無意識の行動指針のようなものです。
「ここは安全」「あそこは危険」「この道は行き止まり」「あの領域は未知」といった情報が、目に見えない形で私たちの心に刻み込まれています。
「こじらせビビリ」は、この「心の地図」の影響を強く受けて機能しているのです。
私たちは無意識のうちに、この古い地図を頼りに行動し、思考し、感情を抱いています。
そして、その地図に「危険」や「立ち入り禁止」と記された領域には、たとえそこに実際の危険がなくても、本能的に近づかないようにしているのです。
例えば、「人前で発言する」という行為が心の地図上で「危険地帯」とマークされていれば、どれだけ理性的に「発言して問題ない」と分かっていても、心の奥底から湧き上がる恐怖や不安を感じてしまうのは当然のことなのです。
この「心の地図」の存在に気づくことで、私たちは「こじらせビビリ」という現象をより深く理解し、その影響から自由になるための第一歩を踏み出すことができるのではないでしょうか。
「心の地図」はどのように描かれるのか?
「こじらせビビリ」の背後にある「見えない心の地図」
それはいつ、どのように描かれるのでしょうか?
なぜある人の地図には「恐怖の森」があり、別の人の地図には「批判の断崖」があるのでしょうか?
次回は、「心の地図」が形成される瞬間に焦点を当て、私たちの中の「立ち入り禁止区域」がどのように生まれるのかを探っていきます。
私たちの心の中に「地図」が描かれた瞬間を、一緒に振り返ってみましょう。