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第1回 これまでのアカデミー作品賞は納得か!? 個人的な好みだけで検証してみた。【2019年〜2010年まで】

どうも、こんにちは。
アカデミー賞大好き芸人のトマトくんです。

今回はタイトルにも書いてあるとおり、これまでアカデミー作品賞を受賞した作品に「妥当性はあったのか」、「その判断は正しかったのか」について、個人的な見解のみで語っていきます。

言ってしまえば「ぼくのかんがえたさいきょうのアカデミー賞」。トマデミー賞です。

かなり主観強めなので、好きな作品はとことん褒めますが、苦手な作品には毒を吐いたりします…。ご了承ください。

では直近すぎる2021年と2020年をすっ飛ばして、早速2019年からやっていきます。


第92回(2019年)

『パラサイト 半地下の家族』より

作品賞 ノミネート一覧
☆パラサイト 半地下の家族
- フォードvsフェラーリ
- アイリッシュマン
- ジョジョラビット
- ジョーカー
- ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語
- マリッジ・ストーリー
- 1917 命をかけた伝令
- ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド

この年は『パラサイト 半地下の家族』が外国語映画として史上初めて作品賞を受賞した年。

アメリカの映画賞の頂点を、韓国の映画が獲るなんて改めて考えただけで鳥肌が立つ…。
細部にまで拘り抜かれた脚本や編集、そして美術、カメラワーク。ポン・ジュノがこれまで培ってきた監督としての才能が光る光る。

複数のジャンルをごちゃ混ぜにしたような展開に、観る者の感情をジェットコースターの如く揺さぶられ、数秒先ですら予想できない。それなのにひたすら分かりやすくて面白い。外国語というハンディを押しのけて作品賞を獲るのも頷けるほどに完璧なクオリティの映画。

しかも、同年にノミネートされた『ジョーカー』や、前年話題となった『ROMA/ローマ』や『万引き家族』など、近年高い評価を受けた映画は社会的格差や雇用問題、貧困といった社会問題をテーマに扱っている。『パラサイト 半地下の家族』は、そんな時代性まで取り入れているから凄い。

お世辞抜きで現代最高の映画であり、史上最高の作品賞のひとつだと思う。

このとき対抗馬だった『1917 命をかけた伝令』や『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』には踏み入る余地など到底無かった。この年は『パラサイト 半地下の家族』以外考えられない。それくらい圧倒的な勝利だった。

もし「英語圏のみの作品」で限定するならば、僕は『ジョーカー』が一番好きだった。この年のノミネート作で唯一『パラサイト 半地下の家族』と僕の年間ベストを張り合った作品。

これまでジャック・ニコルソンやヒース・レジャーが築き上げてきたジョーカー像とは、さらにまた違ったスタイルのジョーカー。こんなのもう素晴らしいとしか言いようがない。そんなホアキン・フェニックスの演技はもちろん、撮影や美術、音楽、演出、様々な解釈を可能とする柔軟な脚本。その全てが高水準で完璧だった。『ハングオーバー』と同じ監督とは思えない…。

テーマも少し『パラサイト 半地下の家族』と似ており、社会派ドラマとしてもメッセージ性が強い。完全にアメコミ映画という、いやエンターテインメントの域を越えていた。もう一度言うが、『パラサイト 半地下の家族』という強敵がいなければ、僕は『ジョーカー』を作品賞として全力で推していた。しかし、パラサイトがある以上は誰も手も足も出せないと思う。

というわけで、『パラサイト 半地下の家族』の作品賞受賞は納得の結果となります。


第91回(2018年)

『ROMA/ローマ』より

作品賞 ノミネート一覧
☆グリーンブック
- ブラックパンサー
- ブラック・クランズマン
- ボヘミアン・ラプソディ
- 女王陛下のお気に入り
- ROMA/ローマ
- アリー/スター誕生
- バイス

この年は、アカデミー会員のアンチNetflix精神が露骨に現れた年。そのため、作品賞は白人賛美のためのご都合主義な映画(と、よく難癖を付けられる)『グリーンブック』。

もちろん差別に対する問題提起としては入りやすいし、多様性の時代を象徴した作品賞としても別に納得ではある。特にトランプ政権時代だからこそ観るべき映画だという声もある。が、やはり白人(イタリア系)側の視点から描かれた「可哀想な黒人像」や、その黒人を助ける「英雄的な白人」の描き方が大きな批判を受けたのも事実。

フィールグッドムービーとしてはよく出来ており、純粋な映画のクオリティを考えればそこそこ評価が高いのも割と納得なのだが、その年を代表するBest Pictureに選ばれるほどのものか、と言われたらそうでもないと思う。

それなら僕は『ROMA/ローマ』による史上初の「外国語映画」と「ストリーミング映画」のW受賞という快挙を目の当たりにしたかった…。

白黒のメキシコ映画(外国語映画)を少しでも多くの人に届けるにはどうすれば良いのか。そこでアルフォンソ・キュアロンが考えたのは、Netflixでのストリーミング配信という形だった。Netflixの普及は劇場文化を崩壊させるとハリウッド内部では度々批判されていたが、この堅物さに嫌気がさす。もしかしてアルフォンソ・キュアロンが柔軟で賢すぎるだけなのかな???

そもそもアルフォンソ・キュアロンの幼少期の思い出を、ここまで神々しい芸術作品として成立させる所業は天才としか言いようがない。しかも、そこに大衆性まで兼ね備えてるんだから文句の付けようがひとつもない(もちろんこれは先ほどのストリーミング批判や、Netflixの大袈裟な集票キャンペーンなど、作品の外の要素を抜きにした場合の話)。

冒頭4分間、ただ水が床を流れているだけなのに全く飽きずに観てられる。なんならグッと画面に惹き付けられる。この作品を評価せずして、何を評価するんだ…?そんな頭の固い会員たちが選んだのが『グリーンブック』…。

『女王陛下のお気に入り』より

せめて、せめて、最多9部門10ノミネートだった『女王陛下のお気に入り』が良かった。イギリスの宮廷を舞台にオリヴィア・コールマン、エマ・ストーン、レイチェル・ワイズが強烈な演技バトルが繰り広げる泥沼映画。

そして、そのバトルに引けを取らない監督の映像技術と演出と才能。全てが高次元のラインで作られていて、まさに新時代の映画だった。同じ英語圏の作品なら確実にこっちの方がクオリティは高かったはず。

またフェミニズム的な要素も強く、「#MeToo運動」が盛んに行われている昨今を象徴する作品でもある。ただ監督のクセが強すぎるのはある。

『ブラック・パンサー』より

作品賞には他にもアメコミ映画初のノミネートとなった『ブラックパンサー』や、往年のミュージカル映画をリメイクして大ヒットした『アリー/スター誕生』、そして日本でも社会現象を巻き起こした『ボヘミアン・ラプソディ』など沢山の作品賞候補がある。(どれも個人的には好きじゃないけど、しっかり個性があって作品賞の風格はある)。

中でも『ブラック・パンサー』は、全米興行収入歴代3位、世界興行収入歴代9位という大ヒットを記録。MCU初の黒人ヒーローというのも「反トランプ政権下の作品」として重要な役割を担っており、オコエやシュリなど女性キャラクターたちが活躍する様子も「#MeToo運動」の時代を象徴していると言える。

『グリーンブック』は別に嫌いじゃないし、なんなら好きな映画だけど、やっぱり流石に作品賞を獲れるほどではないと思ってしまう。あまりにも在り来りというか…、平凡すぎる映画…。

というわけで、『グリーンブック』の作品賞受賞は不服の結果です。


第90回(2017年)

『シェイプ・オブ・ウォーター』より

作品賞 ノミネート一覧
☆シェイプ・オブ・ウォーター
- 君の名前で僕を呼んで
- ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男
- ダンケルク
- ゲット・アウト
- レディ・バード
- ファントム・スレッド
- ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書
- スリー・ビルボード

映画プロデューサーとして有名なハーヴェイ・ワインスタインのセクハラが大量に告発されて、世界的に「#MeToo」「#Time's Up」が流行語になった年。

そのため多様性を描いたファンタジー映画『シェイプ・オブ・ウォーター』や、現代社会への風刺や皮肉の効いた『スリー・ビルボード』や『ゲット・アウト』、そして女性主人公が活躍する『レディ・バード』が作品賞の本命として躍り出た。

個人的に一番好きなのは『ゲット・アウト』。ホラー映画ながら、ブラックムービーとしても、ブラックコメディとしても質が高く、アメリカでは社会現象を巻き起こすほどの大ヒットとなった。そして、アカデミー賞の前哨戦ともなる数々の批評家賞を最も獲得したのがこの映画だった。

社会性、メッセージ性、脚本のクオリティこそ素晴らしいものの、ただやはりホラー映画だし、低予算だし、作品賞としての重厚感・風格がなさすぎるのが勿体ない…。過去にホラー映画で作品賞を受賞したのは『羊たちの沈黙』のみ。ノミネートですら『エクソシスト』や『シックス・センス』『ブラック・スワン』くらい…。受賞の目はないに等しかった。もはや脚本賞を受賞できただけでも勝利と言える。

前哨戦のさなか、英国アカデミー賞で最多5部門を受賞し、本命に名乗りを挙げたのが『スリー・ビルボード』だった。娘を何者かに殺された母親が、犯人を捕まえるために警察への挑戦状とも取れるメッセージの書かれた、三枚の看板を立てる話。まさにアカデミー賞好みのヒューマンドラマ。

内容に暴力性こそあれど、その奥にはしっかり母親としての愛があり、警察官としての誇りがあり、人としての意地がある。「怒りはさらなる怒りを生じる」というセリフがあるように、それを理解してお互いを赦すことが出来るのか。そんなことが問われるテーマはどの映画よりも深く重いし、『ノーカントリー』が作品賞を獲れるなら『スリー・ビルボード』だって余裕…そう考えてる人も少なくはなかった。

まあ人間味のあるテーマの割に、構成はかなり粗っぽくて力技なので、受賞はフランシス・マクドーマンドの主演女優賞と、サム・ロックウェルの助演男優賞で十分だろ!とか言われたら何も反論できないのも事実。実際、監督賞のノミネートや脚本賞の受賞は逃しているので仕方ない。

『スリー・ビルボード』より

そうなってくると、やはり『シェイプ・オブ・ウォーター』は強い。アカデミー賞のノミネートが発表されると、最多13部門ノミネートを獲得し、一躍本命に踊り出した。

デルトロの美的感覚による優れた画作りや演出、そしてレトロな世界観が非常に素晴らしく、画面の至るところ、そしてカメラに映らないような細部にまで丁寧に作り込まれている。

また随所にデルトロの映画愛が溢れており、『大アマゾンの半漁人』や『美女と野獣』は勿論のこと、『デリカテッセン』や『赤い靴』など過去の名作にも様々なオマージュを捧げている。ファンタジー映画というだけあって、どのノミネート作の中でも芸術性が、娯楽性が頭ひとつ抜けていた。

好き嫌いは置いておいて、クオリティだけで見ると現代最高の恋愛映画と言っても過言ではない。それくらい「映画として」の完成度がずば抜けて高い。

映画を愛し、映画に愛され、モンスターを愛し、モンスターに愛された男 ギレルモ・デル・トロが、『パンズ・ラビリンス』や『パシフィック・リム』を経て、ついにオスカーを手にしようとしていた。そして、それを誰もが望んでいた。彼の個性と才能が爆発した大傑作。まさに集大成。これは獲るべくして獲ったオスカーである。

というわけで、『シェイプ・オブ・ウォーター』の作品賞受賞は納得の結果となります。


第89回(2016年)

『ラ・ラ・ランド』より

作品賞 ノミネート一覧
☆ムーンライト
- メッセージ
- フェンス
- ハクソー・リッジ
- 最後の追跡
- ドリーム
- ラ・ラ・ランド
- LION/ライオン 〜25年目のただいま〜
- マンチェスター・バイ・ザ・シー

この年は『ラ・ラ・ランド』がアカデミー賞史上最多13部門14ノミネートされた年。世間の注目は『ラ・ラ・ランド』が何部門受賞するか…であり、『ラ・ラ・ランド』の作品賞は当然という見方が支配的だった。

言わずもがな『ラ・ラ・ランド』は、『シェルブールの雨傘』や『雨に唄えば』など往年のミュージカル映画をオマージュし、ハリウッドの黄金時代にリスペクトを捧げて、世界的に大ヒットを記録した映画。批評家賞などの前哨戦でも圧倒的な強さを見せていた。

そして演出、映像、音楽、衣装、美術、キャスト、どこを切り取っても素晴らしく、作品賞に相応しいクオリティとスケール感を兼ね備えている。パクリだなんだと賛否は分かれていたが、人気だけで言えばもはや無敵の存在だった。

それなのに『ラ・ラ・ランド』は『ムーンライト』に敗れた。一度は作品賞『ラ・ラ・ランド』!と発表されたにも関わらず、その作品賞は『ムーンライト』へと渡る。

『ムーンライト』は黒人、LGBT、いじめ、DV、貧困、麻薬、アメリカが抱える多くの社会的テーマを扱いつつも、その奥には普遍性がある。それこそ『ムーンライト』がここまで愛されて、支持された要因になったんだと思う。

『ムーンライト』より

『ムーンライト』が素晴らしい映画であることは間違いない。だけど、流石にこれが2016年を代表する作品賞っていうのはいくら何でも地味すぎる…。超低予算のインディーズ映画。それならアカデミー賞じゃなくインディペンデント・スピリット賞を狙うべき。

『ムーンライト』の受賞は、ここ数年「白すぎるオスカー問題」が話題になったことや、ドナルド・トランプの大統領選当選に対する反発が票に現れた結果だと思う。

時代の流れが作品賞を変えた。僕もそう思っている。本来なら『ラ・ラ・ランド』が獲るべきだった。ただ世間の風潮がそうさせた。これもアカデミー賞の醍醐味と言ってしまえばそれまで…。

というわけで、『ムーンライト』の作品賞受賞は、不服とまでは言わないが『ラ・ラ・ランド』の気持ちを思うと素直に喜べない…です。


第88回(2015年)

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』より

作品賞 ノミネート一覧
☆スポットライト 世紀のスクープ
- マネーショート 華麗なる大逆転
- ブリッジ・オブ・スパイ
- ブルックリン
- マッドマックス 怒りのデス・ロード
- オデッセイ
- レヴェナント:蘇えりし者
- ルーム

この中で単純に一番面白い映画を選べ!ってなったら、絶対に『マッドマックス 怒りのデス・ロード』だと思う。前作から27年振りに制作された80年代を代表するカルト映画の続編。

しかも、男性陣に立ち向かう女性像は男性社会への批判であり、頭を丸坊主にして戦うフュリオサなど、ジェンダーレスやフェミニズム的な象徴でもある。ただのアクション映画ではないのだ。

正直、作品賞を受賞した『スポットライト 世紀のスクープ』は脚本賞だけでいいし、監督賞を受賞した『レヴェナイト: 蘇えりし者』もレオナルド・ディカプリオの主演男優賞だけでいい。本来ならどちらも『マッドマックス』が受賞するべきだった。

そもそも『スポットライト』なんてインディーズ映画中のインディーズ映画。カトリック教会の神父による子供への性的虐待事件を取り上げたという題材が最も重要であり、内容は全くもって映画的ではない。ドキュメンタリー調にただ事実を羅列しているだけ。社会問題を扱っているとは言え、よくこんな地味でつまらない映画が作品賞を獲れたな…とつくづく思う(好きな方、本当に申し訳ない)。

史上最高のアクション映画、過去最高のエンターテインメント作品とまで称された『マッドマックス 怒りのデス・ロード』ほどのお祭り映画が、『スポットライト』のようなインディーズ映画になぜ負けたのか。本当に理解し難い。

技術部門をほぼ総ナメしたんだから、その年の最も優れた映画に選んでも何もおかしくないはずなのに。なぜか主要部門だけスルー。納得できない。保守派の悪いところが出ている。

というわけで、『スポットライト 世紀のスクープ』の作品賞受賞は不服の結果となります。


第87回(2014年)

『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』より

作品賞 ノミネート一覧
☆バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)
- アメリカン・スナイパー
- 6才のボクが、大人になるまで。
- グランド・ブダペスト・ホテル
- イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密
- グローリー/明日への行進
- 博士と彼女のセオリー
- セッション

この年は、全編ワンカット風の撮影が話題となった『バードマン』と、同じキャストを実際に12年間撮影した『6才のボクが、大人になるまで。』という全く真逆のアプローチで公開された映画が競い合った年。

僕は作品賞を受賞した『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』の方が好きだけど、『6才のボクが、大人になるまで。』は下手したら完成すらしなかったかもしれない奇跡のような映画だから、その奇跡を評価できないのは最も権威のある映画賞としてどうなの?とは思った。(結果的に受賞にこぎ着けたのは、パトリシア・アークェットの助演女優賞のみ)。

まぁ低予算だし、興行収入もコケたから仕方ないところはある。テーマさえしっかりしてれば実際に12年間も同じキャストで撮影しなくても映画としても成立する。しかし、作品のスケール感や奥ゆかしさは桁違い。やっぱりこういう映画を評価することにこそアカデミー賞の真の存在意義があると思うんじゃあ…(突然の老化)。

そもそも『バードマン』はワンカット風の撮影が評価されたとはいえ、内容はブロードウェイを描きながら、ハリウッドの裏側を皮肉った風刺的なブラックコメディ。カットが挟まれないからダラダラしている印象があるし、掴みどころが難しく、大衆性なんてあってたまるか!というような内容。結果的には作品賞に選ばれたが、全体的に規模の小さい話なので、世界最高の映画賞としての権威はあまり感じられない。

もうひとつの対抗馬だった『グランド・ブダペスト・ホテル』は、大衆性と芸術性のどちらも兼ね備えているウェス・アンダーソン節全開の作品だったが、人間ドラマが薄いせいで、作品賞よりも技術賞のみの評価で概ね満足。そう考えると『6才のボクが、大人になるまで。』が最も作品賞としては納得が行く。

というわけで、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』の作品賞受賞は、不服ではないが『6才のボクが、大人になるまで。』に比べるとそこまで相応しくないかも…?です。


第86回(2013年)

『ゼロ・グラビティ』より

作品賞 ノミネート一覧
☆それでも夜は明ける
- アメリカン・ハッスル
- キャプテン・フィリップス
- ダラス・バイヤーズクラブ
- ゼロ・グラビティ
- her/世界でひとつの彼女
- ネブラスカ ふたりの心をつなぐ旅
- あなたを抱きしめる日まで
- ウルフ・オブ・ウォールストリート

この年の作品賞は『それでも夜は明ける』。アメリカの黒歴史をどストレートに描いた黒人映画。今考えても、黒人監督による「アメリカにおける負の面を描いた作品」が、アカデミー賞を受賞したというのはとんでもない快挙。素晴らしい!

また実話を基にしており、12年の年月を丁寧に描いた歴史的な伝記映画というのも如何にもアカデミー賞っぽい。ただ物語はあまりにも予定調和だし、映画の内容に全然ひねりがない。過剰な演出とカメラワークが印象に残るため、「オスカー狙いの映画だ」と言われてしまえば、強く否定はできない。

その点、やっぱり『ゼロ・グラビティ』の革新性は異常だった。映画史を語る上で無視できないほど、強烈な存在感を放っている。ぶっちゃけ『それでも夜は明ける』なんてどの時代でも評価できるし、今やむしろ古臭いまである(全然そんなことない)。

『ゼロ・グラビティ』の上映時間は90分。一切の無駄を排除して、必要なものだけを描く、もはや古典映画を彷彿とさせるような映画的没入感とシンプルさ。最もリアルで、なおかつこれまでになかった宇宙空間の表現を生み出した。その映像技術の進歩にさえ衝撃を受ける。

もしSF映画に初の作品賞を与えるなら『スターウォーズ』か『ゼロ・グラビティ』が一番相応しかったと思えるくらい、近年のSF映画の価値をぐんっと引き上げた。

その後、SF映画(宇宙関連のもの)は『オデッセイ』や『メッセージ』『DUNE/デューン 砂の惑星』などがノミネートされたものの、未だに『ゼロ・グラビティ』を越える《真のSF映画》は現れていない。※ あくまで個人的見解。

とは言っても、まあオスカーが『ゼロ・グラビティ』に作品賞を与える勇気はないはずなので、まぁ無難に万人受けする映画の『それでも夜は明ける』でも仕方ないよね…とは思う。

というわけで、『それでも夜は明ける』の作品賞受賞はそこそこ納得の結果です。


第85回(2012年)

『ゼロ・ダーク・サーティ』より

作品賞 ノミネート一覧
☆アルゴ
- ジャンゴ 繋がれざる者
- レ・ミゼラブル
- ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日
- リンカーン
- 世界にひとつのプレイブック
- ゼロ・ダーク・サーティ
- 愛、アムール
- ハッシュハピー 〜バスタブ島の少女〜

この年は、作品賞と監督賞ともに大本命だった『アルゴ』のベン・アフレックと、『ゼロ・ダーク・サーティ』のキャスリン・ビグローが監督賞のノミネートから落選したことで、なぜか『アルゴ』の作品賞にだけ同情票が集まった年。(ビグローは3年前、既に『ハート・ロッカー』で作品賞や監督賞を受賞したことがあるため余計に)。

ちなみに全米監督組合賞の受賞者(ベン・アフレック)が、アカデミー監督賞にノミネートされなかったのは『カラーパープル』のスピルバーグ以来17年振りらしい。

そんな『アルゴ』はアメリカ大使館で人質となった職員たちを救出するため、CIAが架空の映画製作を企てる実話。奇抜な設定ながらも、かなりオーソドックスな展開と飲み込みやすい内容。終始、映画愛に溢れた娯楽作で、会員の票が流れたのも頷ける。

しかし『アルゴ』には同じ中東が舞台で、同じCIAを題材にした『ゼロ・ダーク・サーティ』という強力なライバルがいた。エンタメ性を極限まで削ぎ落として、リアリティを追求したジャーナリズム映画。『アルゴ』のようなの娯楽作に比べて、こちらは秀逸な映像作品として評価されていた。それに9.11の首謀者であるオサマ・ビンラディン暗殺を題材にするというタイムリーさも時代性があって良い。

そもそもキャスリン・ビグローは、米軍がビンラディンを取り逃がした「トラボラ作戦」の映画化を企画おり、その最終段階で突如ビンラディン暗殺が報道されたため、強制的にこの内容に変更を強いられたという誕生秘話がある。事前のリサーチや取材関係者との交流も功を奏し、ビンラディン暗殺からたった1年弱でこの映画を完成させるのだから素晴らしいとしか言いようがない。

2009年に『ハート・ロッカー』で作品賞と、女性初の監督賞を受賞したキャスリン・ビグローであっだが、それから3年で前作を遥かに凌ぐクオリティの作品を生み出すというのも衝撃であった。

もちろん『ゼロ・ダーク・サーティ』はあくまでリアリティを追求した作品なので、純粋に映画的な面白さでは『アルゴ』には負ける。しかも、『ゼロ・ダーク・サーティ』は「大統領選挙に向けたプロパガンダ映画」「国家の機密情報を勝手に盗んだ」「CIAの拷問を正当化してる」等の様々なバッシングを受けた。(しかし、全て的外れな批判である)。

これは良くも悪くも話題性があるし、ネガティブキャンペーンに曝されるのは素晴らしい映画である証拠(本命だからこそ、受賞しないように矛先を向けられる)。捉えようによってはマイナスにもプラスにもなる。僕の中ではプラスだった。

『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』より

ただ、この年はCGによって独特の世界観を生み出した『ライフ・オブ・パイ』や、スピルバーグが10年以上も温めていた企画『リンカーン』、演技派俳優たちによる傑作ラブコメディ『世界にひとつのプレイブック』、タランティーノ最大のヒット作となった『ジャンゴ 繋がれざる者』、超人気ミュージックの再映画化『レ・ミゼラブル』と、有力な作品がひしめき合っていて、どれが作品賞を受賞してもおかしくないくらいの僅差だった。

いま僕はこうして『ゼロ・ダーク・サーティ』を推しているけど、『アルゴ』の作品賞受賞は何も違和感はないし、それが『ライフ・オブ・パイ』だったとしても『リンカーン』だったとしても『世界にひとつのプレイブック』だったとしても『シャンゴ』だったとしても『レ・ミゼラブル』だったとしても特に文句はない。

上記の7作品は全て世界興行収入1億超えを突破した作品であり、また主要6部門も全て異なる作品の受賞となったことも、この年のオスカーがどれほど混戦だったかを象徴している。ポール・トーマス・アンダーソンの『ザ・マスター』ですらノミネートから漏れてしまうハイレベル(新興宗教サイエントロジーを題材にした攻めた作品ということや、主演のホアキン・フェニックスが賞レースを批判したことも影響しているとは思うけど…)。

ただノミネート作の中で『ゼロ・ダーク・サーティ』のみがクオリティ面で一線を画していると思った。僕がアカデミー会員なら、迷わず『ゼロ・ダーク・サーティ』を作品賞に選ぶ。

というわけで、『アルゴ』の作品賞受賞は納得ではあるけど不服でもある…です。


第84回(2011年)

『アーティスト』より

作品賞 ノミネート一覧
☆アーティスト
- ファミリー・ツリー
- ものすごくうるさくて、ありえないほど近い
- ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜
- ヒューゴの不思議な発明
- ミッドナイト・イン・パリ
- マネーボール
- ツリー・オブ・ライフ
- 戦火の馬

『アバター』のヒットにより3D映画が台頭してきたこの時代に、『アーティスト』はあえて白黒のサイレント映画を撮った。まずその勇気が凄い。極めてオーソドックな内容ではあるものの、一周回って新しいことに挑戦しているので讃えたくなる気持ちの方が大きい。しかも、ただの懐古趣味には終わらず、これまで白黒映画に触れてこなかった層が興味を持つきっかけにもなったのも良い方向に転んだ。

このとき対抗馬だった『ヒューゴの不思議な発明』は『アーティスト』とは真逆に、3Dを駆使した懐古趣味映画。技術部門を総ナメし、何歳になっても挑戦的なマーティン・スコセッシが凄すぎて、どっちが作品賞でも違和感ない接戦だった。

個人的にはテレンス・マリックの『ツリー・オブ・ライフ』や、外国語映画賞を受賞したイラン映画『別離』の方が好きだし、そっちの方がクオリティも高いと思うけど、如何せん挑戦的だったり、大衆性が無さすぎる…。

『ツリー・オブ・ライフ』より

逆に大衆性で言えば、アメリカで社会現象級の大ヒットとなった『ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜』がある。娯楽映画の良さをふんだんに詰め込みつつ、公民権運動や黒人差別を軽快に描く。ただまぁこれも『グリーンブック』同様に、見方によっては「英雄的な白人」が「可哀相な黒人」を守るお手本的なハリウッド映画とも言える。

またアレクサンダー・ペインが『サイドウェイ』以来7年ぶりに放った傑作『ファミリー・ツリー』。昏睡状態になった妻の浮気が発覚した男が、残された娘たちとの関係の修復を試みる話。

ハワイが舞台となっており、アレクサンダー・ペイン史上最大のスケール感で、秀逸な家族ドラマが展開されていく。「尊厳死」や「土地の売買問題」などをテーマにしており、娯楽性のみならず社会派作品としての完成度も高い。ただスケール感の割には、若干絵面が地味な家族ドラマになっているのは否めない。

そんな娯楽映画と芸術映画の名作たちがひしめき合う中で、上手くふたつの要素を組み合わせて、映画好きたちのハートを掴んだのは『アーティスト』だった。しかも『アーティスト』はフランス映画なので、台詞がないとはいえ事実上は初の外国映画の作品賞。めちゃくちゃ快挙。

こちらも「英語圏のみの作品」で限定するならば、個人的には『ファミリー・ツリー』が相応しいと思うが、やはり最も愛されているのは『アーティスト』で間違いないと思う。

というわけで、『アーティスト』の作品賞受賞は納得の結果となります。


第83回(2010年)

『ソーシャル・ネットワーク』より

作品賞 ノミネート一覧
☆英国王のスピーチ
- ブラック・スワン
- ザ・ファイター
- インセプション
- キッズ・オールライト
- 127時間
- ソーシャル・ネットワーク
- トイ・ストーリー3
- トゥルー・グリッド
- ウィンターズ・ボーン

この年は大本命と言われてた『ソーシャル・ネットワーク』を『英国王のスピーチ』が打ち負かした年。

まあ『英国王のスピーチ』には映画としての華やかさや、親しみやすさがあり、老会員にも分かりやすい、受けの良い内容だったのかな?と思う。 実際、吃音の国王がスピーチに向けて頑張って克服する!という分かりやすいカタルシスまで着いてくる。

でも単純に映画としての面白さ、巧さ、時代性では『ソーシャル・ネットワーク』が他を圧倒していた。世間では「21世紀の市民ケーン」とまで称され、『英国王のスピーチ』なんて比べ物にならないほど高い評価を得た。

しかもこの年は、Facebookの利用ユーザーが全世界5億人を突破した年。「作品賞は時代を映す鏡」とはよく言うけど、まさに2010年の『ソーシャル・ネットワーク』を指すための言葉だった。

もし『ソーシャル・ネットワーク』がダメなら、せめて『インセプション』や『トイ・ストーリー3』のような“新時代の映画”が作品賞を獲るべきだった。あんなくだらない映画より、よっぽど映像作品としての価値がある。

特に『インセプション』は、2010年のサマーシーズンを代表する大ヒットとなり、複雑な脚本、ド派手な演出、かっこいい画作り、奇抜な設定。マンネリ化していたハリウッドに新たな風を吹き込んだ決定的な作品でもある。

また2008年に同じくクリストファー・ノーランの『ダークナイト』が記録的な社会現象となったものの、作品賞にノミネートされなかったことへのお詫びも込めて受賞して欲しかった。

ただ『インセプション』が監督賞や編集賞のノミネートから漏れてしまったことから分かるように、ノーランはオスカー会員に嫌われている。(題材が題材なので仕方ないとはいえ)ああ、苦しい。

『インセプション』より

2010年という節目の年。記念すべき10年代最初の作品賞は、絶対『英国王のスピーチ』ではなかったと思う。この瞬間からアカデミー賞の目指す路線は大きく変わった気がする。

正直、この辺から無味無臭で、オーソドックスで、地味で、凡庸で、無難で、当たり障りのない作品賞が増えてきた。受賞作のラインナップを見たときに、どうしても「つまらない…」という印象を受ける(映画の内容的な話ではなく)。

2010年代はアカデミー賞における暗黒の期間だと思うので、2020年からぜひ巻き返してほしい。そう願って僕は今日もアカデミー賞を想い、愚痴を垂れる…。

というわけで、『英国王のスピーチ』の作品賞受賞は不服の結果ということになります。


2010年代はここまでとなります。
以下、2019年から2010年までの僕の理想の作品賞を、一覧として載せておきます。
最後までご愛読ありがとうございました。

2019:パラサイト 半地下の家族
2018:ROMA/ローマ
2017:シェイプ・オブ・ウォーター
2016:ラ・ラ・ランド
2015:マッドマックス 怒りのデス・ロード
2014:6才のボクが、大人になるまで。
2013:ゼロ・グラビティ
2012:ゼロ・ダーク・サーティ
2011:ツリー・オブ・ライフ
2010:ソーシャル・ネットワーク


次回

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