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TRUNK Field Notes 台湾工藝(その1)
日本にたくさんの工芸があるように、台湾にも工芸があることをご存じでしょうか?
木工、竹細工、石彫刻、陶磁器、硝子、漆器、金物、織物など日本とも関わりの深い工芸が台湾にはあります。
私たちは台湾でクラフトツーリズムを立ち上げるプロジェクトを2024年に開始しました。
まずは、台湾の工芸をもっと知る必要があります。
というわけで、2024年10月上旬に1週間のフィールドワークに行ってきました。
フィールドワークの様子や学んだことを皆さまにシェアできたらと思い、3本立てでお届けいたします。
台湾の手仕事、ものづくりに興味ある方にとってはおもしろくて参考になる記事だと思いますので、ぜひ読んでみてください!
ものづくり体験型ツーリズム
台湾のクラフトツーリズムを立ち上げるに至った背景をお話をするために、一旦、日本の話をさせてください。
日本には、地域固有の風土・歴史・生活文化と密接につながるものづくりが根付いており、日本の文化資本を形成しているが、生活様式の変化や海外製品の流通によって、手工芸を中心とした地域固有のものづくりは衰退傾向にあります。
これは、日本独自の文化資源の喪失の危機を意味しているとも言えます。
そんなネガティブな状況下、ツーリズムの世界に目を向けてみると「地域固有のものづくり体験を好む」旅行客が一定数いることがわかりました。
そこで「その地域独自のものづくり体験に参加したい」という旅行客向けにクラフトツーリズム『Local Craft Japan(以下、LCJ)』を2022年に立ち上げました。
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予算ゼロでスタートしたフィールドワーク
TRUNK DESIGNでは、台湾で開催されるハンドメイド展示会『POP UP ASIA(以下、PUA)』にコロナ禍前から毎年出展してきました。
LCJが立ち上がったタイミングで、各産地のクラフトツーリズムを起点とした内容で出展を始めました。展示内容に注目し、私たちの活動に共感してくれたPUAのオーガナイザーと「台湾でいっしょにクラフトツーリズムやりたいね〜」としばしば立ち話の話題になりました。
そして2024年、LCJの暖簾分けとして台湾のクラフトツーリズムを立ち上げようとTRUNK DESIGN×PUAの共同プロジェクトがスタート。その年の展示会で『Local Craft Taiwan』のお披露目をすることにしました。
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「台湾にどんな工芸があるのか?」「どんな地域で発展していったのか?」など台湾工芸への理解を深めるため、フィールドワークを行うことに。
近年、台湾では地方創生への関心が高まっています。
社会的にも意義のあるプロジェクトだと考えた私たちは、活動予算確保に向けて台湾政府の補助金申請をしたり、地元企業とのタイアップを図るもうまく話がまとまりません。
そうこうしているうちにPUAの開催までの期限が迫ってきました。
取れる選択肢は2つ。
1つは、今年の展示は最低限に留め、来年度に予算確保を目指すか。
もう1つは、自分たちで活動費を捻出しフィールドワークを決行するか。
さまざまな理由はありましたが、「鉄は熱いうちに打て」「展示するならコンテンツのクオリティは担保したい」ということでフィールドワークを決行することにしました。
林業廃材が工芸へと昇華、バール材市場を牽引する『LOU WU 羅武榴木』
そんなこんなで予算ゼロで始まったフィールドワーク。
訪問先はPUAの伝手をたどり南は嘉義から北は桃園まで、各地域の職人さんの工房や工芸関連の施設を周ることに。
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1日目の行き先は、ウーロン茶で有名な阿里山の入り口『嘉義』。
嘉義は、日本統治時代(1895年〜1945年)林業や製糖が盛んだった町です。
林業に従事した日本人居住地区や昭和レトロな街並みが残っており、歴史的観光スポットも多い地域です。
ここ数年、若者が嘉義へ移住しカフェを始めたりと移住先としても注目されています。
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1軒目に訪れたのは、榴木(以下、バール材)を使った工芸品のデザインをしている『LOU WU 羅武榴木』。
バール材とは、樹木の幹表面にできるこぶで、虫や傷による細菌感染からの修復過程で形成される稀少材のひとつです。
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嘉義県東部の阿里山地域はヒノキなど豊富な木材資源にめぐまれ、日本統治期には官営事業として林業開発が進められました。
台湾ヒノキは主に日本に輸出され、明治神宮の鳥居などに使われるほど高品質な木材でした。当時、バール材は使えない木材として薪に使われるか、捨てられていました。
あるとき、製材業者がバール材の不規則な木目に注目し加工してみたところ、見事な輝きと美しさで人々を魅了しました。バール材に対する価値観の変化が起こり、そして榴木工芸へと発展することになります。
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Andyさんのお話を聞いていると、バール材への飽くなき探究心に圧倒されてしまいます。
自ら山に入り台湾バール材の調査をしている様子を動画にしたり、バール材に関する書籍を出版したりと、台湾におけるバール材の認知度を上げる活動をしています。
LOU WU 羅武榴木のYoutubeチャンネル、阿里山フィールドワークの動画です。興味ある方はぜひご視聴ください。
今までハイエンドな作品を多く作ってきたが、コレクターの高齢化が進んできたこともあり、もっと若い層にもバール材に親しんでもらおうとクリエイティブに溢れた作品づくりも始めました、と話すAndyさん。
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木材の利用用途がどうであれ、最初は捨てられてきたバール材が今や台湾では工芸としての市民権を得ました。
一方で、日本における木材の価値観は節がなければないほど(無節)上等(少なくとも建材の場合は)だとしています。
捨てられていく廃材に新たな価値を見出し、クリエイティビティを取り入れてきた台湾に、林業が衰退している日本は、もしかしたら台湾から学べることがあるかもしれないと思いました。
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台湾林業のいろはを学べるテーマパーク『愛木村観光工場』
続いて訪れたのは、嘉義の林業を伝えるテーマパーク『愛木村観光工場』。
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地場産業である林業のことを子どもから大人まで知ってほしいと、自社の製材所を3年かけてリノベーションし、オープンしたそうです。
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ここでは嘉義の林業の歴史を学べたり、木材の紹介、木製の積み木や車、ゲームのあるファミリーエリア、ショップ、カフェ、ワークショップなどがあり、林業のことを知れる体験型複合施設になっています。
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かつて、台湾ではそこまで林業は盛んではありませんでした。
たとえば一級品といわれる阿里山ヒノキでいうと、阿里山は台湾原住民にとって神聖な場所だったため一般人が勝手に立ち入ることは許されませんでした。
日本が統治を始めた当初、台湾で実地調査をしていた調査隊が阿里山にたくさんのヒノキが自生していることを発見。良質な木材が採れることがわかると、鉄道を敷設し、サプライチェーンを整え、日本への輸出が始まりました。
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かつての最盛期に比べ、嘉義に残る木材製材所は激減したそうです。
まだ残っている数件の製材所のうちのひとつがここ愛木村。さいごに製材所の様子も見せていただきました。
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「檜町」と呼ばれた日本統治時代の面影を残す『檜意森活村』
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1912年、阿里山森林鉄道の開通で嘉義の林業が一気にドライブし、街全体が栄えるようになりました。
当時の政府(台湾総督府)は、重要な産業として林業に従事する人材育成を目的に専門学校をつくったり、阿里山森林鉄道の始発駅である北門駅の周りに林業関係者の宿舎、修理工場、製材所、オフィスなどの関連施設が建てられました。
そのエリア一体の建物に、檜(ヒノキ)が使われていたため「檜町」と呼ばれ、当時は隆盛を極めていたことがわかります。
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通訳を代行してくれたポケトークは年々クオリティーがあがっている!?
戦後、台湾最大の輸出先だった日本が撤退し、台湾林業は少しずつ衰退していきます。
「檜町」に住む人もいなくなり、建物は残ったまま、ただ老朽化を迎えるのを待つだけでした。
21世紀に入り、台湾の文創(*)ブームが追い風となり、このエリアは2013 年に「檜意森活村」としてリニューアルされました。
ショップ、カフェ、レストラン、イベント展示スペース、ワークショップ、工芸品展示など、森林文化創造をテーマとした店舗が集まっています。
近年は、木造の日本式家屋をはじめ日本的な風情が人気を博し、観光スポットにもなっています。
*文化創意産業の略。政府がデザインや音楽、工芸などのクリエイティブ産業を支援し、地域創生や国際競争力のある台湾ブランドの創出を目指す事業。
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台湾ではよく歴史的に価値のある史跡を利活用しようと、各地でクリエイティブな活動が見られます(老街(ラオジェ)、港湾倉庫街、旧たばこ工場など)。
そうすることで「歴史の保存」と「商業施設」の2つの目的を果たすことができ、また台湾のクリエイティビティの強化にも寄与しています。
こういった背景を知っておくと、台湾のことを俯瞰的に見れるかもしれません。
嘉義唯一の彫刻欄間職人『陳佐民鑿花工作室』
林業の街として栄えた嘉義。
当時は、木材を中心にさまざまな職人さんが活躍していました。
和風建築の彫刻欄間(らんま)をつくる木彫師も多く、主に日本への輸出品として商売が繁盛し、景気がよかったそうです。
しかし時代の移り変わりとともに、和風建築に住む人が少なくなり、彫刻欄間産業も衰退。
嘉義市内の職人さんも減少し、ついには現在、木彫師はひとりのみとなりました。
陳佐民さんです。
工房にお邪魔すると「こんにちは、よく来てくださいました。わたしは陳です。」と流暢な日本語で出迎えてくれました。
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クライアントのほとんどが日本の商社ということで、独学で日本語を習得した
さっそく工房を案内いただきました。
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中学を卒業し、この道一本で極めてきた陳さん。
日本の木彫師から彫刻技術を学び、絵も独学で習得し、自ら花板のデザインができるまでになり、業界で確固たる地位を築きました。
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巧みな技術に見惚れてしまう
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「彫刻絵柄は、すべて頭の中に入っている」と話す陳さん
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彫刻の技術が消えゆくことを惜しがる陳さんは、ワークショップを通して欄間彫刻の基礎から木材の選び方や各種彫刻技法の指導し、次世代の担い手育成に注力しています。
近年は、若手デザイナーと協業し、日常にも取り入れやすい作品づくりなどにも積極的に取り組んでいます。
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嘉義フィールドワークを終えて
元々は地域に根付いてなかった産業が、他国の視点から利用価値が見出され、やがて地場産業として発展し、経済的利益をもたらす。
地場産業が文化や人々の営みと切っても切れない関係であることを、嘉義のフィールドワークを通じて、改めて実感しました。
一方で、工芸を中心に形成されてきた文化・技術・人々の営みが失われつつあること、この問題は台湾でも起きているということもしっかり認識できた良い機会でもありました。
「伝統工芸ないしはものづくりを未来にどう残していくか?」
TRUNK DESIGNでは日々この問いに向き合い、試行錯誤を繰り返しながら活動をしています。
台湾は「創意(クリエイティビティ)」との掛け合わせが得意で、地域課題の解決に取り組んでおり、その取り組みから多くの学びがありました。
日本と台湾のクリエイティビティを掛け合わせ、Local Craft Taiwanを通じて、より多くの方に工芸を身近に感じてもらえるきっかけを作れたらと考えています。
総じて、1日目から幸先の良いスタートでした!
次の記事では彰化、南投でのフィールドワークの様子をお届けしますので、そちらもぜひお読みください。
2024年10月取材
宮田
◉Local Craft Taiwan Teaser movie
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