vol.01|ブランディングに必要な視点ってなんだろう|「純度を高める」対話集
デザイン会社として創業した、TRUNK(株式会社トランク)。
「本当にお客様の役立つデザインを」と突き詰め続けるうち、自分たちの役割はお客様の経営の「純度を高める」ことであると納得できたそう。
自分たちのことを一言で表せる言葉を見つけた、代表・笹目さんと、その右腕・助川さん。「純度を高める」に関するお話を聞いてみました。
(聞き手 栗林/取材業)(プロローグはこちら)
TRUNKって何をしている会社なの?
栗林:話を深める前に1つ確認したいのですが、TRUNKさんのやっていることを言い表すとしたらなんなんでしょうか?
笹目:やってることはブランディングです。でも目的は「純度を高める」こと。企業の純度が高まるの方法を常に選択する、というイメージです。目的が「作る」ことになっちゃうと違います。作っても作らなくても、我々が関わることでお客さまの純度が高まればそれでいい。そういう会社でありたいですね。
栗林:なるほど。では、TRUNKさんのことを全く知らない、デザイン業界のことも知らない方に一言で会社のことを説明するなら「ブランディングの会社」と。
笹目:「ブランディング」だと思います。でも世の中のものにあてはめるのであれば、ね。あと言葉で言い表せない部分がまだまだあると思う。で、それはお客さまに感じ取ってもらうのがいいなと考えています。
栗林:たしかに。このTRUNK noteを読み進めてより理解を進めていただければよいのですね。
笹目:そうそう。noteはそういう場所にしたいと思って始めました。
お客さまのルーツを理解する
助川:最近、社歴って大事なんだなって、気づきました。今までやってきたこととまったく違う、新しい事業を始めようとすると「え?なんで急に?」って思いますよね。そのときに社歴を追っていくと「なぜこの考えに至ったのか」のかがわかる。あ、こういうことが起こって、その時こういう気付きがあったんだなって。
笹目:創業時何をしていたかを知ると、経営者が「社会のニーズに合わせて自分たちができることは何か」と自分に問いかけながら、常に試行錯誤を続けて、そして今の経営があると理解ができるんですよね。実はそれが会社の「姿勢」にもなってる。
会社の人達は、「今」に慣れてしまっているから、その変化には気づきにくいのだけど、社歴を見ると「今まではこれでやってきたけど、もっと社会に役に立てるんじゃない?」っていう気づきと共にどんどん変化してきたことが何となくわかるんですよね。それは割と発見でした。
助川:面白い発見でしたよね。社歴ってWEBサイトに入れるものだと漠然と思ってたけど、その人達が生きてきた歴史ですもんね。いや、ちょっと甘くみていたなと反省です…。
純度を高めていくための“視点”
栗林:そういう風に、相手を深く理解するための「視点」も、TRUNKさんらしさだなと感じています。笹目さんがよく私の視点の話をしてくれますが、お二人こそ「視点がある人」だと思って。どんな視点を使って相手の純度を高めるのかが大事だなって感じるんです。経営者が大事にしてきたことを丁寧に見て、解像度を上げてくれる人たちがここにいるよ! ということは、この連載で伝える必要があると私は思います。お二人の「視点」によってお客様の経営の純度が上がるということは、ちゃんと表現したいなと。
助川:それは嬉しいな〜。
栗林:お二人のそういう物の見方って、本を読んだり誰かの話を聞いてハッとしたりすることで日々アップデートされているのでしょうか?
笹目:そうですね。視点って別なものと繋げられる能力と言い換えることもできますよね。「コレってアレと似てるんじゃないか」って、お客様のやっていることと、全く別の事柄との間の共通点を探す癖が僕にはありますね。で、それをお客様に伝えると面白がってくれたりします。そういうのがお互いの認識の確認作業になるんですよね。
栗林:お二人と歯車が合っていく経営者というのは、本当にその視点を求めているんだろうなという感じがします。
笹目:でもね、私たちの「視点」って、今言った「別の物事と繋げること」のほかにも別な効果がありそうだなと思っているんですよね。お客様の純度を高めるうえで「視点」ってそれだけじゃないような気もするですよね。
助川:うーん、どういうこと?
笹目:「視点」って、それだけに留まらないんじゃないかなと思って。今みたいな話の他にも、TRUNK独自の視点っていうのがあるような気がするんだよね。うまく言葉にできないけど…。
TRUNKの考え方は「野生の思考」?
助川:笹目さんが言いたいことって、「野生の思考」ってことかな。
栗林:「やせいのしこう」?
助川:今の例え話みたいな話がレヴィ=ストロースの本にあってね。
私には難しすぎて、100分de名著と入門編を2冊くらい読んだだけなんですけどね(汗)。でね、その中でかろうじて私なりに「お!」って思ったのが、人間は自然から生まれているものなのだから、人間の思考も自然の法則に当てはまっているはずだっていう考えでね。
北アメリカの先住民は鷲狩りの習慣をもっていて、彼らはその方法を黒熊かクズリ(イタチ類の動物)どちらかから教わったんだと。でもどっちの動物から教わったのかは定かではない、ということなんですね。で、レヴィ=ストロースがそれはクズリから教わったんだと導き出すんですよ。穴に隠れて素手で鷲を捕まえるという方法は「自分が獲物にもなり狩人にもなる」ということで、この法則が当てはまるのは黒熊ではなくクズリだと。だからクズリに教わったんだと。
先住民は非科学的なこと幻想的なことを言っているのではなくて、自然の法則や差異(構造)を見出して、自分たちの暮らしに活用している。未熟なんかではなく、むしろとっても豊かな思考を持ってるじゃん!ということなんですよね。…たぶん。
笹目:「野生の思考」とは。(web情報を読む)「比喩に基づく類推法の論理で成り立っている」。「眼前の事象を考える際に、その事象と別の事象との間にある関係に注目し、それと類似する関係性を持つ別の事象群を連想しつつ、それらを再構成すること」って書いてある。
助川:う、むず…。でもね「あ!比喩ってそういうことか!」となった瞬間があったのよ。めちゃ難解な内容ですから、あくまで私なりに、ですよ。こっちの構造が、ほかのものにも当てはまるよねっていう感じ。両者はまったく別のように見えるけど、同じ構造で成り立ってるよねっていう感覚は、お客さまの仕事について考えるときにも感じていたので、すごい嬉しかったんです。あれ、話、それましたかね…。
栗林:いや、こういう引用話も、すごくTRUNKさんらしい思考だなと思います。
笹目:我々の思考の深め方を表現するのに、ちょうど当てはまるものを見つけたということね。
助川:そうそう。笹目さんの言っていた「視点」のもうひとつの効果っていうのと繋がってるかわからないけどね。
類似点を共有し、深めていく
笹目:難しく感じる話を単純に捉えて理解するには、そんな風にすでにある物事を一つの基準にして、お客様の今の状態と類似するものと、しないものを確認するのが一番早いなと思います。類似するものが多ければ多いほど、お客様の共感が得られたり、納得し合えたりできる。私たちの理解度をお客様に示せる部分にもなるから、そうすると話が早くなるんですよね。
そして逆に類似しないものは「個性」として、初めて出会う物事としてどう扱っていくか考えればいい。
助川:なるほどね~。
笹目:だから、参考になる物事が世の中にないか、周りを見る作業はなるべくするようにしてます。
栗林:笹目さんも助川さんもそういう視点で世の中を見ているので、お客様のことを二人で話ながら深めていくし、お客様との間でも深めていくし、という視点のアップデートの仕方をしていると。
笹目:そうそう、そうなんです。そういう作業はしていますね。
栗林:TRUNKさんらしさですね。
解決を急がない
助川:栗林さんもこの間、TRUNKのことを理解する手掛かりって仏教の本を持ってきてくれましたよね。「TRUNKと仏教のどこに共通点が?」って思うけど、栗林さんがなぜそれを持ってきたのかという視点からだと、見えてくるものがありますよね。栗林さんが私たちと仏教に共通点を見出してくれている、それって何? ということですよね。
栗林:たしかに。「視点」を持ちながらお客様に向かい合おうとするから、お二人は本質に向かって深堀りができるんだなと、ちょっとわかりました。お客様に「共感する」だけでなく、お客様とは異なる「視点」があることで、前へ向かう原動力になるというか。
助川:そうそう、ほんとそれ、すごく大事ですよね。
お客様の問題を解決するのが私たちの仕事でもありますからね。その反面、目の前にある問題解決だけを注視しすぎると、本質な課題の解決からは離れていってしまうこともあります。デザインすることだけにフォーカスすると、本質的なことがこぼれ落ちていってしまうのと同じです。
その場合は純度が高まらなくなってしまうので、解決を急がないで、ふわっとした時間をお客様と一緒に重ねることで、自ずとその先が現れてくるのを待つこともあります。
栗林:それってこの前のお話にでていた(プロローグ)、「必要なものは、生まれるべきタイミングで最後のひとしずくとして滴り落ちる」っていう感覚と似ていますね。「作ることがゴール」という前提じゃないからこそ、できることですよね。あえて停滞のなかで化学反応を待つみたいな。
笹目:そうですね。 お互いに根気がいる時間でもあるけど、とても有意義だよね。
(Vol.02へつづく)※公開準備中
取材・編集・ライティング|栗林弥生
イラスト|佐野圭
写真|仲田絵美