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#005.音を出してみよう その1(原理編)

突然ですが問題です。

Q.トランペットはどのようにして音が出ているのでしょうか

答えは「唇の振動」です。これはご存知の方も多かったかもしれません。


それでは次の問題。

Q.その唇の振動はどのようにして起こっているのでしょうか。

さてわかりますか?もしかするとあまり考えたことがないかもしれませんね。
この音の出る原理を理解していると、楽器を演奏するにあたって本当に必要なこととそうではないことが具体的に見えてくるので、覚えておいて損はありません。

ということで今回のテーマは「音の出る『正しい』原理」についてです!


アパチュア/空気圧/抵抗感

トランペットから音を出すために大切な3つの要素です。ひとつずつ確認してみましょう。


[アパチュア]
アパチュアとは、唇やその周辺のうごきによって作られた唇中央の穴です。

「ウ」と発音したときや、熱い食べ物を冷ますために「フーフー」すると、唇が中央に寄り、穴ができます。トランペットを演奏する際にそこまで尖らせたりすぼませることはありませんが、アパチュアはこうしたものだと思ってください。と思ってください。具体的な作り方に関しては次回詳しく解説します。


[空気圧]
先ほどの熱い食べ物を冷ますために「フーフー」したその空気は、具体的に言うなら体内の空気圧が高まった結果生まれたものです。

例えば、風船は空気が入った状態だと、元の小さなサイズに戻ろうと縮む力がかかります。すると、中にある空気が押されて空気圧が高まっているので、出口が開いていると勢い良く空気が噴出します。

体の中も同じように空気を溜められる空間があり、その空間を何らかの力によって圧迫すると体内の空気圧が高まり、結果的に口や鼻といった出口から空気が流れ出るわけです。
トランペットは「吹く」という動詞を用いますが、演奏者の感覚としては「吹く」ではなく「空気圧を生み出す」とイメージしたほうが解決することが多いです。

[抵抗感]
何もない空間に「フー」と吹く感覚と、ビーチボールや浮き輪などに空気を込めるときでは、同じ動作なのに感覚が大きく変わります。ビーチボールを自力で膨らませるの、結構大変ですよね。あれはボールの入り口が小さくて、いっぺんに大量の空気を流し込むことができないことがひとつ。そして、ボールが膨らんでくると、中に入れられる空気の許容量が限界にきたことによるものです。

トランペットを演奏する際に大切なもうひとつの要素は「空気抵抗感」。これは楽器やマウスピースなど様々なところから発生する要素ではありますが、その中で人為的に用意する抵抗感について理解し、実践できることが最も大切です。

先ほどトランペットは「吹く」ではなく「空気圧を生み出す」と書きましたが、まさにこれを意識的に用意します。具体的には舌の奥と上顎や上の奥歯あたりを閉ざすことによって、トランペットに大量の空気が直接流れ込みすぎないように抑えるわけです。これによってトランペットを演奏する(=唇が健康に振動する)空気の量になり、その時に空気抵抗が発生するということです。。

[ベルヌーイの定理]

流体力学という学問に出てくる言葉だそうですが、空気が流れるとそこの圧力が下がる、ということのようです(難しいので詳細は自分も理解しきれていません)。例えば、空のペットボトルを2本横に並べて、その間に少しだけ隙間を作ります。隙間に向かって強めに空気を「フッ!」と吹き込むと、ペットボトルがくっつき合う、という現象があります。

この2本のペットボトルを上下の唇と考えると、体内から唇へと空気が流れることで引き寄せ合い、また元の開いたセッティングに戻る状態を繰り返すことが唇の振動を考えた時、唇は常に開いた状態ではなければならないことがわかります。ただし、この穴は極めて小さいもの

これがトランペットから音を出すための大変重要な要素なのです。

間違った解釈 〜セルフバズィング〜 

さてすでに楽器を演奏されている方の中には、

「え?唇を開けるなんて考えたことない(けど音出せてるよ)」

という方、多いかもしれません。

例えば口周辺に強い力をかけ、口角(口の左右)を横に引っ張り、マウスピースがなくても唇をビービー振動させるいわゆる「バズィング(Buzz=虫の羽音)」ができるようになることがトランペットから音を出すために必要、と考えていませんか?

しかし、残念なことにこれはトランペットの『正しい』吹き方ではなく、「唇をビービー鳴らす行為」でしかありません。

この行為を私は「セルフバズィング」と呼び、本来あるべき音の出し方と差別化しています。

唇を閉ざして口の中全体の空気圧を強くし、それを破り開けるような意思で振動させる行為は確かにトランペットから音を出すことはできます。しかし、それによって生まれた音色は細くて鋭い響きがありません。

他にも、口周辺に必要以上に力を入れやすいため、筋力バテを起こしやすいことや、その力によって顎が固められて音域変化やタンギングなど必要な柔軟性が損なわれる可能性もあります。

口周辺の筋力は重要ではありますが、使い方を間違えると思わぬ方向に行ってしまうことも多いのです。そのひとつが、「顎関節症」の発症です。

顎関節症になった話

私自身、中学2年生の頃に顎関節症になってしまいました。トランペットを初めて2年目のことです。そうなったきっかけが、最初に教わった音の出し方がまさに「セルフバズィング」の方法だったからなのです。

情報が少ない時代でしたし、音大生や管楽器の専門家が部活に教えに来てくれる環境など当然はほとんどありませんでした。ですから、トランペットの吹き方も先輩から語り継がれてきた曖昧な情報を伝言ゲームし続けているものでしたが、それを疑うことなど当然せずに力ずくで音を出していました。

1年ほど経ったころから顎関節(耳のすぐ手前)の痛みに悩まされるようになり、開閉時にカクッとずれる感じになりました寝て起きると顎が開かなくなっていたり、ヘッドホンをすると口が開けられなくなるこの状態、30年経った現在も変わりません。

トランペットを演奏することは楽しいことなのに、間違った解釈で体調が悪化したり、辛い思いをするなんて絶対に避けたいことですから、最初から正しい演奏方法を知り、いつまでも健康にトランペットを楽しんで欲しいと心から願います。


次回の記事は実践編です!引き続きご覧ください。


荻原明(おぎわらあきら)

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荻原明(おぎわらあきら):トランペット
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