ハーメルン【8】
ママは僕の視線に気付くと、あわてて笑顔を作った。
「さっ、明日も学校でしょ。歯磨き、ちゃちゃっと終わらせて寝よ!」
「明日は土曜日だから休みだよ。午前中、みんなでイズミちゃんちに集まって調べ学習することになったんだ。」
ちょうど宿題も出てた。だから嘘じゃない。
「あ、そっか土曜日だったね。でもイズミちゃんちに行くなら、お休みでもちゃんと起きなきゃね。」
「うん。そうだね。」
何かが引っかかったままだったけど、僕は歯磨きを済ませると自分のベッドに向かった。
目が覚めると、いつも通りの休日の朝だった。パパは昼まで寝てるけど、ママは朝食の準備やら洗濯やらと動き回っている。
「おはよう!」
ママはいつもの綺麗な笑顔だ。
二人で朝ご飯を食べている間、ママは元気そうで、なんか引っかかったのは気のせいだったのかもしれない。
「じゃ、イズミちゃんち行ってくるね。ママ、ドラマちゃんと見てよ!」
「え~?!ちゃんと見るものなの?」
「ノリちゃんが『ぜ~ったい、見た方がいい!』って言ってたよ!」
「ふふふ…。わかった。わかった。ちゃんと見とくわ!イズミちゃんのママにキチンとご挨拶してね。お昼に帰ってくるわよね?」
「うん。午後から、僕んちでみんなと遊んでいい?この前買ったボードゲーム、みんなもやりたいって言ってたんだ。」
もちろんボードゲームは口実でみんなにうちの冷蔵庫を見てもらいたかった。
「あぁ、あれ。人数多い方が楽しそうだもんね。おっけー。わかった。行ってらっしゃい!」
ママはにっこり、手を振った。
イズミちゃんちのインターフォンを押す。
「あ~、来た来た!もうみんな来てるよー。」
モニター越しにイズミちゃんの声が返ってくる。
「あ、イズミちゃんのママ、おはようございます。おじゃまします。」
「いらっしゃい。あとからお茶もっていくわね。」
イズミちゃんのママは明るく迎えてくれる。
部屋に入ると、ノリちゃんもコウくんも真面目な顔をして座っていた。
僕とイズミちゃんも小さなテーブルをはさんで腰を下ろす。
「ヨシくんちのママのこと、あれから何かわかった?」
コウくんにたずねる。
「ううん。警察に捜索願出してるけど、何にも手がかり無いんだって。」
「そっか。僕のママ、やっぱり様子がおかしいんだ。それも必ず冷蔵庫のそばにひとりで居るとき。でもノリちゃんちはハーメルンの冷蔵庫だけど、何も変なこと無いって言ってたよね。」
「うちのママは昼間、仕事行ってるからなー。冷蔵庫のそばにいる時間が短いからかも。それに、ママがキッチンに居る時間は家族もみんな家にいるし。」
「入るわよ~。」
ふわっと紅茶のいい匂いがして、トレイの上に4つのカップとクッキーを乗せたイズミちゃんのママがやって来た。
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