ハーメルン【16】
『多発する主婦の行方不明、ハーメルン冷蔵庫と関係?!』
『冷蔵庫から催眠波?拉致の可能性も』
SNSや動画サイトで噂は瞬く間に広まった。
僕らの教室でも休み時間になると話題にあがる。
「ねぇ、きみんちの冷蔵庫ってハーメルン?あれ、ヤバいって聞いた?」
「ビリーもハーメルンの仲間なんでしょ?」
「ビリーはたまたまCMに出てるだけなんじゃないの?」
いろんな憶測も流れる。
毎日、何度も流れていたハーメルンのCMは見なくなった。CMだけじゃなくて、あれだけいろんなテレビ番組で見ていたビリーも全く見ない。それと同時に頻発していた行方不明事件もピタッと収まった。
いつもの帰り道、コウくんはぴょんぴょん跳ねながら言った。
「作戦大成功!もう、平気だねっ!」
「うん。ホントによかった。」
僕はもう、あわてて帰る必要はなくなった。
「ママの言った通りになったね。でも、今までに行方不明になった人は全然、見つかってないらしいよ。」
「ヨシくんのママも、帰ってきてないって。ヨシくん、妹と二人でママの方のお婆ちゃんとお爺ちゃんちに引っ越すんだって。」
「そっか…。」
みんな、何とも言えない気分でうつむく。
「ママが言ってたんだけど、SNSとかであれだけ噂になったのにテレビのニュースとか新聞には全然取り上げられないって。真相はわからないまま、ハーメルンの会社は日本から撤退するんだって。」
イズミちゃんの声は苛立っている。
「そのうち、みんな忘れちゃうのかな。こんなことがあったって。ヨシくんのことも。」
コウくんは小さい声でつぶやいた。
僕はたまらなくなった。
「僕は絶対に忘れないし、ハーメルンのこと、これからも絶対許さない。」
ママが泣きながら僕に謝ったあの顔がうかんだ。
「ヨシくんのことだって…。ねぇ、ヨシくんに手紙書こうよ!」
「そうだね。SNSだってあるし。じゃ、今日は誰んち集合?」
いつも通りノリちゃんはクールだ。
コウくんがまたしてもぴょんぴょん飛び跳ねながら、手を挙げた。
「はい、はーい!今日は僕んち来てよ。昨日、パパが爪切ってたから、こっそり取っといたんだ。」
「よっしゃ、じゃ、どうやってバレずに爪を食べさせられるか計画立てよう!」
ノリちゃんの目が水を得た魚みたいにイキイキと輝きだす。
「本気なの?お腹こわすかもよ?」
イズミちゃんは、やっぱり今日もしっかりしてる。
僕は、みんなの顔を眺めながら、みんなと一緒でほんとに良かったと思った。
「おっけー!じゃ、ランドセル置いてコウくんちに集合ね!」
僕の言葉を合図に、みんなで一斉に駆けだした。
おわり