四畳半神話大系
著者:森見登美彦
出版社:角川
初版:2005年
あらすじ
主人公は京都大学の冴えない3回生で、異性に縁がなく学問に不熱心、貧相な身体の持ち主だ。1回生の春に加入するサークルによって話は変わり、それぞれでパラレルワールドになる章立て。全章をまとめるようなあとがきは無いのが独特。悪友の小津や不可思議な先輩である樋口、そして麗しの乙女明石さんらとの青春を描く面白い語り口のストーリー。
印象に残ったセンテンスなど
巻末の解説など
佐藤哲也:陰鬱な性格の学生を主人公とした小説には珍しく、語り口が軽快でユーモラスだ。尚且つ青春の持つ複雑な心理を的確に描写しておりすごい。並行世界の描き方についての考察。最終章で並行世界の連続体に迷い込むが、その軽微な変化を見逃す。われわれを規定するのは不可能性である。小津が大活躍をするのは無意味を恐れないからである。語り手は常に薔薇色のキャンパスライフを夢見ており、これは可能性への恍惚だ。
感想
アニメ化されるほどに有名な作品であるため、読んでみたときはその奇特な構成に驚いた。キャッチーでなかったからだ。確かに各部分で描かれる苦い青春の心理と、知的でユーモラスな語り口は魅力だ。しかし各章がパラレルワールドでしかも登場人物がそれを認知することはほぼ無い(最終章の語り手でさえも核心には触れられなかった)、各章で同じような描写が繰り返されるなど本当に革新的だ。よく見る構成として、建前のストーリーはとりあえず語られるが深読みすると別の筋道が浮かぶといった流れがある。本作は建前のストーリーなどなく、文字を追うだけでは全体を通して理解することができない。それでいて面白いのだから敬服する。