苦役列車

著者:西村賢太
出版社:新潮
初版:2012年

あらすじ

大部分は表題作”苦役列車”で19歳の鬱屈した日雇い人足である北町貫多の過ごす暗い生活を描く。ラスト数十ページには2作目"落ちぶれて袖に涙のふりかかる"が収録されており,こちらは貫多が後年私小説家となったストーリーを描いている。名前こそ違うがその特性は明らかに西村賢太を投影していると思われる私小説。

印象に残ったセンテンスなど

暗いバックグラウンドと陰鬱な性格、19歳らしい開き直りの文章。

巻末の解説など

石原慎太郎:私小説の芸術性について。心身性を用いて解説。
小説の魅力は主題の奇特性であるが、それに執着してもホラーなどのジャンルにしかならず、奇特性という言葉で一般化されてしまう。芸術性の高い奇特性を得るためには自らの人生を照射される体験が必要。その力能こそが心身性。本作品は皆が密かに想像し恐れるような底辺の暮らしのイメージを照射し、開けっ広げに描写してしまう。

感想

私小説というものに初めて触れた。苦役列車にて並べられる煮詰まった文章と,併録された落ちぶれて…との時系列を超えた対比が面白い。数十年は経っているだろうか、老朽化した肉体と幾らか悲しげに成熟した精神が描かれる。

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