ねじの回転 心霊小説傑作選

著者:ヘンリー・ジェイムズ
訳者:南條竹則、坂本あおい
出版社:創元推理文庫
初版:2005年

あらすじ

ある屋敷に家庭教師として雇われた女性の視点で描かれる、美しい子供たちと謎の幽霊の物語(ねじの回転)。
美しい令嬢の姉妹は互いに恋敵となり疎遠になる。衣服に造詣が深い姉の結婚衣装への執着に恐怖した妹は衣装箪笥に鍵をかける(古衣装の物語)。
神学生の私はあるとき散歩道で恐ろしい屋敷を発見する。好奇心に憑りつかれた私は屋敷について調べ始める(幽霊貸家)。
軍人養成の私塾を運営するコイルは軍人一家から来た逸材オーエンから退塾の相談をされる。やがてオーエンの不遇に同情したコイルはオーエンの家族を説得するために彼の屋敷を訪れる(オーエン・ウィングレイヴ)。
ライターとして生計を立てる私は師匠と崇める故ドインの妻から伝記の執筆を熱望される。ドインは才気あふれる作家であり、生前の彼は作家が伝記を出すことについて否定的だった。憧れのドインの部屋で資料の整理や執筆ができるため、私は伝記の仕事を引き受けてしまうが…(本当の正しい事)。

印象に残ったセンテンスなど

この発見を、花びらを一枚一枚めくるように、しばらく弄んでいたい気持ちもあったのだ(幽霊貸家)

巻末の解説など

訳者あとがき:夏目漱石によるとヘンリージェイムズの文章は難渋だそうだ。ねじの回転という訳は大いに悩んだ。本文中ではねじの回転というよりもひとひねり、圧迫といったニュアンスが強い。
解説:赤井敏夫 ねじの回転の出典とヘンリー・ジェイムズのルーツについて考察。科学的調査を売りに活動した心霊研究団体SPRのレポートについて言及し、ヘンリーがSPRによる心霊の分類を参照したのではないかと考察。分類は霊媒を介した憑き物と場所に現れる地縛霊(霊の出現・アパリション)の2つである。

感想

解説にある通り、難解な文体だった。ニュアンスを余すことなく伝えるために複雑な表現になることは翻訳にありがちなので、本作も翻訳だから難解なのかと思ったが、原文も複雑らしい。心霊小説と銘打っているがこの時代の怪奇譚は現代とは大きく異なり、直接的な恐怖表現が発達していない(勿論、キリスト教的価値観からの恐怖の違いもあるだろう)。これは心霊小説であり、恐怖小説ではない(殆どミステリでもない)。心霊現象をモチーフにして人物の心理描写を楽しむタイプの物語だった。

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