火のないところに煙は
著者:芦沢央
出版社:新潮
初版:2021年
あらすじ
作家である語り手は神楽坂怪談というテーマでの依頼を受ける。しかし語り手は過去に神楽坂で恐ろしい体験をしていた。その体験を一つの怪談として発表したことを皮切りに、なにか奇妙な怪談が集まっていく。それはだんだんとある真相に近づいていく。
印象に残ったセンテンスなど
各章を淡々と提示しておいて最終章で畳みかけるような恐怖の考察。綿密。
巻末の解説など
千街晶之:ホラー小説の起源について軽く考察。2010年代は著者が主人公となる怪談系(フェイクドキュメンタリー)が多かった。その背景にあるのは90年代に流行した実話怪談系だろう。本作は全章通して同じような構成である。実際に超常現象は存在し、相談者は一般的な日常トラブルから悪夢に転落していく。それらは登場人物らの善意がきっかけとして起こるため、ミステリ感の強い心理描写も楽しめる。
感想
複数の怪談ストーリーを提示してラストの総括でより邪悪なものが現れる系。それぞれの怪談自体にも怪異は登場しておりホラー描写も十分あるため章単体で楽しめる。最終章”禁忌”とあとがきはまるで読者までをも侵食するような強大な恐怖を描いている。解説にもある通りこういった構成のホラー小説は多いが、本作はその中でも、一つの章それぞれが読みやすい。それ単体で謎を多く残して終わる。総括からの考察が難解といった特徴がある。