石たちのキャンプ

気まぐれな夜に

 私は朝起きると、寝室の出窓で休んでいるクリスタルたちを眺め、「さて。今日は誰を連れて行こうかな」と、いくつかピックアップすることから始める。そのままリビングに連れていかれた石たちは、無造作にテーブルに置かれ、朝の諸々を見るともなしに見ているのも、いつもの光景だ。
 食事の準備などをしていると、今日は出窓に残した青いプレート石が、どうしてもチラチラと脳裏に浮かぶ。ああそうか、今日は一緒に来たかったのだな。ちょうど娘が2階から降りてきたので、迎えに行ってもらった。
 そうそう、ここ、ここ。満足げに水晶おんじたちの元へ滑り込む。もうこの散らかったテーブルの上でも、これでこそ我が家と言わんばかりに馴染んでいるのが憎めないところだ。
 洗濯を干しに外へ出ると、心地よいおひさまの匂いに誘われて、石たちも外に出たいと言っているように感じ、多肉植物の鉢植えの中に置いてやった。
 サードニクスは太陽の光に弱いのだと思い込んでいて、ひとつだけ、手元に残して留守番をさせた。それから何の気なしに天然石の本をパラパラめくってみると、太陽で浄化しても良いことがわかり、ごめんごめんと仲間たちの元へ連れていったのだった。
 そうこうしているうちに、もう夕方だ。慌ただしく過ごしていると、時が経つのは本当に早い。雨が降りそうで、たまには石たちも、雨に当たっても楽しいんじゃないかと思い、タオルだけを取り込むことにした。
 いつも、寝る前にベッドの上に置き、すぐ近くで共に過ごすのだが、今日はいつもの主要メンバーは多肉植物の林で野宿だ。少し寂しいような、何とも言えない気持ちになったが、かわいい子どもに旅をさせるような気持ちで、ひと晩を過ごした。
 朝になり、バタバタと日課をこなし、洗濯物を干し終えたところで、クリスタルたちを迎えに行く。ドキドキ、ワクワク。まるで初めてのお泊り保育を経験した子どもを迎えに行くような心境だ。たったひと晩だったが、やっと会える気持ちの高鳴りを抑えて、冷静さを装い迎え入れる。
 雨は降らなかったよ。皆が口々に教えてくれる。手触りは、思っていたより温かくなかった。改めていつものテーブルに並べると、何だかそれぞれ精悍な顔立ちだ。例えるなら、そう。塩でキュウリの余分な水分を抜いたような、引き締まった姿だ。
 石と私との、こんな経験が珍しくて、石の友に話した。すると、こんな返事が返ってきた。
 石たちは、家の灯りを見上げながら、いつ私の手がやってくるのだろうと、少し戸惑いつつも、全幅の信頼をおいて、待っていてくれたようだと。
 外の自然に触れることよりも、お迎えにきてくれることを待っていてくれたことが嬉しいのと、申し訳ない気持ちでいっぱいになり、すぐさま謝った。 私もドキドキしながら、離れて過ごしていたけれど、なーんだ、早くに迎えに行けば良かったよ。
気まぐれに付き合わせてしまってごめんね。
 
 はからずも、あなたたちが私の中で、愛おしくて仕方がない存在だという確認ができた夜だった。

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