いにしえの魔女と魔女見習い、出会いのおはなし

 うふふ。小径に面した家の前で幼き少女が笑みをこぼす。彼女の名前はカーリン。石や動物、草花と話すことができる、不思議な少女だ。
 道の脇にある、一休みにちょうど良い腰掛け石に声をかけられ、話をしている。
「さっきの旅人はこの僕に靴裏の泥をなすりつけて行ったんだ。こんな迷惑な話はありゃしない!」
カーリンはクスクス笑って、泥を落とす水を汲んできた。
「そんなに怒らなくても大丈夫。私がちゃんと落としてあげるよ。」水とモップで汚れを落とし、これで良いでしょうとひとつ撫でてやる。
そこへ、「何やってるんだい!石なんか洗ってないで、早く家の中におはいり!まったく、口がきけないのに外なんか出るんじゃないよ。」
 そう。カーリンはお喋りが得意ではない代わりに、動物や植物、石たちと心で会話をする娘だった。何を考えているのかわからない姪を押し付けられ、イライラしている叔母は、いつもカーリンに強く当たる。自分の4人の子どもに加え、預かるより他になかったこの煩わしい姪を、何とか口減らしはできないものかと、常々考えていた。

 カーリンは、叔母が自分を忌々しく思っていることを幼いながらも感じ取り、肩身の狭い思いをしていた。

そんな一部始終を見ている老婆がひとり。嗄れた声でカーリンの叔母を呼び止める。

「ちょいと奥さん。あんたその子が邪魔なのかい?」

「邪魔も何も大邪魔よ!この子の親はとっくに死んだんだ。おまけに喋りもしないし、全く何を考えてるのか気味が悪いったらありゃしない」

「それなら私にその子を譲ってくれないか。なぁに、タダとは言わないさ。このまじないの粉をひとつかければ、どんな植物もよく育ち、3倍の食料が得られる。これと交換しておくれ。」

「そんなもの、本当に効くのかい?まぁいいや、食い扶持がひとり減るならどこでも連れていっとくれ。」

その時、カーリンの頭の中に声が響いてきた。

(聞こえるかい?大丈夫。わたしはお前が気に入った。悪いようにはしないから、ついておいで。)

カーリンはこの不思議なお婆さんが、石たちと同じように言葉を操れることが嬉しくて、ニコリと微笑み返した。

お婆さんの懐の大きさを感じ取り、安心して海に浮かべた小舟のようにユラユラと歩み寄り、手を繋いぐ。

 その瞬間、ピリリと電気が走り、僅か4才のカーリンは、ここから自分の人生が変わることを魂で予感した。

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