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「多元追憶ストライクエンゼル」各話紹介#7

ぼくが制作に参加している自主制作アニメ「多元追憶ストライクエンゼル」。その各話を、メインプロットを追いながら見どころや制作の裏話などをお届けします。

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今回は第七話「それぞれの夜明け」の紹介と解説です。
第七話は、アクションこそありませんが、本作の人間関係であったり、ストライクエンゼルという作品の重要なテーマそのものの構造であったりを踏まえたエピソードとなっています。外連味たっぷりな回とは違ってゆったりした回なので何度も観ることはない回かもしれませんが、忙しくないからこそ普段は感じられない空気感や情報を楽しめる回だと思います。

この記事では、そんなテーマに関するところをちょっと第三者的な考察的な見方(つまり≠公式設定)で解説します。
後半には小ネタや裏話も載せていますので、そちらも楽しんでください。

ヒリュウが動かない唯一の回

これは、第七話の公開時のぼくのアナウンスのツイートです。

公開を間近にして「第七話はどう紹介しようか」というときに、ヒリュウがずっと静止したまま動かない回はシリーズ中でこの回だけであると気づきました。

そういう回のシリーズ中での価値ってなんだろうかと考えてみると、動きがないからこそ、キャラは自分の心象や他人との関係を整理でき、今後のドラマに繋げていけるんじゃないかと。そういうポジションにあるエピソードなのではないかと考えています。

第七話の具体的なプロットは以下です。

1:43 整備中のヒリュウ (状況説明)
2:11 セラ
3:14 ブリーフィング (状況説明)
4:13 リョウジとアイネ (対話)
5:21 リョウジとセラ① (対話)
6:23 ユキエとミサキとナナコ① (対話)
7:49 第三帝国の閣僚たち (状況説明)
9:55 グライスト(ハインツ)とアイリス (対話)
12:31 アイネと来馬 (対話)
14:43 ユキエとミサキとナナコ② (対話)
17:40 リョウジとセラ② (対話)
21:08 天田と兵藤 (対話)
22:36 アイネ

ということで、ほとんど一対一の対話となっています。
これまでの状況(第一話から第六話)を登場人物同士(あるいは自身)がまとめ、今後の動きを決意するような、そんな対話がメインです。

それ以上に大事なのは、これまでのキャラクターの見え方、「このキャラはこうあるべき」という登場人物(and/or観客)の固定観念を一度曖昧にして再構成するようにも捉えられるということです。「この人はこういう人のはずだ」というのは現実でもよくある誤解です。

繰り返しになりますが、この回ではヒリュウは動きません。しかし、世界やまわりの状況は刻一刻と動いていきます。そしてその中でもコンスタントに動くものといえば、太陽とはじめとした天体です。太陽が動くことで、ヒリュウは様々な角度から照らされ、登場人物の様々な側面に光を当てることができる。忙しくないからドラマ回だからこそ、時間の経過と共にゆっくりと登場人物への見え方は立体的になっていく。第七話の存在意義はそんなイメージです。

第三帝国閣僚の会話

本シリーズにおける第七話の価値は、前述したような登場人物自身や人物間の心理描写だと考えていますが、もちろん今後のシナリオの展望もチラ見せしています。

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その中でも新出のキーワードが多く出るシーンが、Bパート、第三帝国帝都にて3名の閣僚が車内で会話をするところです。以下は、そのスクリプトの抜粋です。シナリオもばっちり追いかけたい方は、台詞を読みながら・聴きながら、ぜひ今後の展開を想像してみてください。

ガンデル「ヴァル・トエクヴァイナハテンに今度はヴァル・トエクオースタンか」
ノーマン「図りかねるな。総統のご興味はどこにあるのか」
ダモガー「総統は変わられてしまった」
ノーマン「ギドランを使った人工太陽に始まり、例のアウトバーンやデネールのエネルギープラント建設。総統の真意が掴めんのだ」
ダモガー「総統には総統のお考えがあるのだろうが、正直、一連の開発に不満を持つ者も多い。最近では国父派の動きも目立ってきている」
ガンデル「帝国内外の反乱分子が共闘すればヤコラー恒星系全域を巻き返す大戦争にもなりかねない」
ノーマン「そこで親衛隊だ。これに乗じてさらに組織の規模を拡大している。ついに帝都内にも艦隊を常駐させるとはな」
ダモガー「せめてラウムゼーを我々の味方につけられればな」
ノーマン「無駄だ。奴は例のエルデン艦にご執心だ。そういう意味では我々より総統に近い立場だ。こちらには着かん。それに我々空軍、陸軍は奴の航宙軍がなければ今や何の意味も持たない。奴にとっては我々など駒にすぎんのだ」
ガンデル「時代は航宙艦隊か。我々が神に迫り、大地を失った時から全てが狂ってしまった。帝国臣民が求めているものは大艦隊でも、聖地や千年帝国でもない。地に足のついた生活だ」
ノーマン「陸軍元帥らしい物言いだ。だがどちらにせよ、現在の足並み揃わぬ状態では、この帝国に未来はない」

裏話と小ネタ

アイリス・グライストの着物

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劇中、ハインツ・グライストの心の拠り処として登場するハインツの姉・アイリス。彼女は着物姿で登場します。
アイリスは、グライストにとり特別な存在であり、本作のストーリーにも重要な影を落とす”幻影“であることから、着物という、今作においては浮いた装いで登場しています。
アイリスを演じている石附氏ですが、この着物のデザインの監修も行っています。着付けの経験があることから監督が監修を依頼したそうです。
そんなアイリスですが、グライストのプライベートな空間には人形として置かれているというシーンがあります。幻影としてのアイリス、人形という変わらぬ姿であり続けるアイリス、これがグライストの意思にどう影響するのか。この先のシナリオで明かされる数々の事実も含めて楽しみにしていてください。

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中盤、那奈井ユキエや久織ミサキ、楢崎ナナコの3人が語らう“女子会”のシーンの小ネタです。
この女子会において、3人がこれまでに見せなかった姿を観ることができますが、そんな会で彼女たちが飲んだ麦焼酎が「雪」です。
この「雪」、モデルとなっている実際の焼酎がありまして、宇宙戦艦ヤマトファンならご存知かもしれない焼鳥のお店、「博多焼きヤマト」さんで提供されている焼酎になります。ぼくや監督もちょくちょく利用させていただいているお店ですが、今回はそのトリビュートとして「雪」に登場してもらっております。

第三帝国閣僚の乗るリムジン
このエピソードでは、第三帝国帝都の街並みがこれまでで最も多くの時間をかけて描写されています。
街並みを形作る上で重要なのが、汎用性の高い移動手段としての車だと思っています。今回の第三帝国の閣僚たちが意味深な会話をする第三の場(自宅でも職場でもない場所)として、リムジンを採用しました。
さて、そのリムジンのデザインのイメージソースは、ロールスロイスのクラシックカーである「ファントムⅡ」となります。車両前方部の無骨なエンジンまわりと、20世紀前半の流線型への憧れが見事に調和した傑作だと思いますが、未来の世界の“第三帝国”においてもこのデザインは一周回って新しく感じる美しいものであるということで、リムジンカーとして登場しています。

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写真:ロールスロイス ファントムⅡ コンチネンタル
このプラモデルの箱絵を参考にデザインされた

作中での実際のデザインは、ぜひ本編でご確認ください。
余談ですが、「ファントムⅡ」のファントム(phantom)は、英語で幻影や幽霊という意味がありますが、似た単語でスペクター(spectre)があります。スペクターも幽霊という意味がありますが、スペクターといえば、前々回にも紹介した007シリーズにおける裏の巨大犯罪組織の名称です。さて、こうしたダブルミーニングは、作品にどの程度影響するのでしょうか...。

グライスト役・イセアモア氏のこと
最後にグライスト役のイセアモア氏について。
ヒリュウの登場人物のキャスティングは、ほとんど身内(学生のときの知り合いなど)にお願いしています。それは出演をお願いしやすいというのもありますが、人間関係を描写するためのリアリティを高めるためでもあります(演技の質より芝居の本物感を重視したというイメージ)。とはいえ、やはり経験の浅い人では難しい役もあります。
まさにその筆頭がグライストでした。
普段、キャスティングの際には、特定の人にお願いする場合もあれば、数名で声を当てて最もイメージ像に近い人に依頼をするという形式をとっています(ここは当然といえば当然ですが)。当初、グライストに関してもその方法でのキャスティングを考えていましたが、どちらも上手くいきませんでした。
というのも、グライストの、孤高の権力者ながらも異常な愛情を核に持つという人物像を表現することは非常に困難だったからです。異常な愛情表現だけを表現することはできてもどこか嫌らしくなってしまい、またその逆も然りと、片方に寄らずこの両面を表現できるかどうかが肝でした。
そんなとき監督が依頼をしたのがイセアモア氏でした。イセアモア氏は、Twitterやニコニコ動画、YouTubeで演技や声真似などの活動をしている方で、ぼくや監督も以前からフォローしている方でした。
声質や声の幅が豊かで、巧みな表現もできる方のため、半ばチャレンジングな依頼をさせていただきましたが、ご快諾いただき、現在もグライストを演じていただいております。
依頼した後のデモテープや実際のアフレコを通じて、役をお願いして良かったと思っています。明瞭な声はもちろんですが、何よりグライストの人物像にぴたりとはまっているからです。ぼく自身最終回までの内容を知っているから言えることですが、今後のグライストの活躍に魂が込められることをただただ楽しみにするばかりです。

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第八話へつづく

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制作団体「Section2」の活動内容は随時こちらのTwitterアカウントで更新していますので、ぜひフォローをお願いします。

Section2第1スタジオ@航海中( https://twitter.com/section2_1st )


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